夜中の刺客

文字数 538文字

「!」

 俺はベッドから飛び起きた。あの音が聞こえたからだ。
 急いで電気を点け、構えをとる。せっかく気持ちよく寝ていたのに。
 俺はじっと耳を澄ます。

「どこだ? どこから来る?」

 気分は暗殺者に狙われた主人公だ。どこから来るかわかったもんじゃない。
 全神経を耳に集中させる。

「――そこだ!」

 俺は光よりも速く手を伸ばした。手応えはあった。
 俺はゆっくりと手を開いた。

 そこにはなかった。
 あるべきはずの蚊の死骸が。

「しくじったか!」

 こうなると厄介だ。向こうも俺が敵だとわかっているからな。

「次こそ!」
「まだまだ!」
「今度こそ」
「ど、どこにいるんだよお……」

 もう完全に見失ってしまった。
 それなのに、あの羽音だけはしっかりと聞こえる。
 もうやだ。おうちかえる……。

 そもそもあいつらは何で血を吸うんだ?
 確か、血を吸うのはメスだけだったよな?

「あなた血を私にちょうだい?」
「君の血じゃなきゃヤダァ」
「君の血のおかげでボクの家族は幸せになれるのさ♪」

 なかなか良いじゃないか。
 こう考えるとあの鬱陶しい羽音も求愛の音に聞こえてくるな。

 ん? 家族?
 そうだよ! あいつらやることやって、その子供を育てるために俺の血を吸ってんだよな。

 俺は無言で押し入れから蚊取り線香を取り出した。
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