第8話
文字数 1,321文字
物語の中の令嬢たちに憧れていた。小鳥のように愛らしい少女、薔薇の花のように凛と咲く姫君、雪の結晶のように儚く美しい乙女…。純粋だったり自信に溢れていたり従順だったり、様々な女の子がいたが彼女たちは皆愛されて当然な美しさと魅力を持っていた。
最初は単純にキラキラしたものに惹かれていた私だったが、段々と物語と現実を比較し始めた。運よく自分はきらびやかな社交界に参加できるような身分に生まれたこともあり多少の脚色があることは理解しつつも物語と現実は同じものだと思っていたのだ。しかし楽しそうにおしゃべりをする他の令嬢たちの輪に入ることは出来ずいつも隅で持参した本を読んでいた自分と物語の登場人物たちを見比べると己のみじめさがひしひしと感じられた。一応主催の立場もあってホルニッセ王子は度々私に話しかけてきたが、見目麗しく紳士的な王子は幼少期から令嬢たちに人気で、地味で根暗なのに王子と楽しそうに話す私を彼女たちは煙たく思っていたようだ。そしてある日王子の取り巻きの1人が私にこう言った。”醜いあなたじゃ王子に釣り合わない”と。
その言葉を受けて私は鏡を見た。つり上がった目、同年代の女子の中では高めの身長、骨ばった身体。ああ、確かに私が憧れた物語の中の令嬢、それに現実の令嬢たちとも違う。本当はむしろ社交的ではない性格の方に問題があったのだろうと今になれば思うが、当時の私は自分が理想の令嬢になれないことは性格以上に容姿に問題があると思い込んでしまった。そして生まれながらの容姿を変えることは出来ないとわかっていた私は自分が憧れたものには決してなれないと悟り、あの頃から”浜野家の令嬢”であることに嫌気がさした。どんなに醜く歪でも家柄から私は”令嬢”であることは違いない。しかし私が”令嬢”であり続ければ自身が憧れたそれに泥を塗ることになる。”令嬢”という存在に強い憧れを抱き過ぎた私はこうして全てを捨て浮浪少年、”浜野ハヤテ”となった。
家を出てからの生活は楽ではなかった。盗みもしたし、脅しもしたし、時には殺しもした。ナイフなどを使った戦闘や魔術の腕は知らぬ間に磨かれた。強くならないと生き残れないからだ。だがそれでも自由というものはとても気持ちが良かった。ナタリーに拾われてからは明日の心配はしなくて済むようになった。わがままで人使いが荒いがこちらの事情を深堀りしようとしないし、なんだかんだで世話にはなっている。ホルニッセは俺が鴇子であろうとなかろうといずれにせよ浜野家の人間を放ってはおかないだろう。きっと実家に戻れと説得してくるに違いない。あれのお節介は吐き気がするが、生憎俺はここを離れるわけにはいかないのだ。
そういえば以前ナタリーに何故ホルニッセのことが嫌いなのか聞かれたことがある。自分が狂うほど愛する人間のことを毛嫌いしている俺と組もうとするところは彼女の理解し難い点の1つだが、確かあの時俺は”なんとなく”と答えた気がする。”そんな適当な理由であたしのホルニを毛嫌いするなんてありえない!”とキレられたが、好き嫌いなんて感覚的なものだろう。それともあいつは何か明確な理由があってホルニッセに付きまとっているのだろうか…。
最初は単純にキラキラしたものに惹かれていた私だったが、段々と物語と現実を比較し始めた。運よく自分はきらびやかな社交界に参加できるような身分に生まれたこともあり多少の脚色があることは理解しつつも物語と現実は同じものだと思っていたのだ。しかし楽しそうにおしゃべりをする他の令嬢たちの輪に入ることは出来ずいつも隅で持参した本を読んでいた自分と物語の登場人物たちを見比べると己のみじめさがひしひしと感じられた。一応主催の立場もあってホルニッセ王子は度々私に話しかけてきたが、見目麗しく紳士的な王子は幼少期から令嬢たちに人気で、地味で根暗なのに王子と楽しそうに話す私を彼女たちは煙たく思っていたようだ。そしてある日王子の取り巻きの1人が私にこう言った。”醜いあなたじゃ王子に釣り合わない”と。
その言葉を受けて私は鏡を見た。つり上がった目、同年代の女子の中では高めの身長、骨ばった身体。ああ、確かに私が憧れた物語の中の令嬢、それに現実の令嬢たちとも違う。本当はむしろ社交的ではない性格の方に問題があったのだろうと今になれば思うが、当時の私は自分が理想の令嬢になれないことは性格以上に容姿に問題があると思い込んでしまった。そして生まれながらの容姿を変えることは出来ないとわかっていた私は自分が憧れたものには決してなれないと悟り、あの頃から”浜野家の令嬢”であることに嫌気がさした。どんなに醜く歪でも家柄から私は”令嬢”であることは違いない。しかし私が”令嬢”であり続ければ自身が憧れたそれに泥を塗ることになる。”令嬢”という存在に強い憧れを抱き過ぎた私はこうして全てを捨て浮浪少年、”浜野ハヤテ”となった。
家を出てからの生活は楽ではなかった。盗みもしたし、脅しもしたし、時には殺しもした。ナイフなどを使った戦闘や魔術の腕は知らぬ間に磨かれた。強くならないと生き残れないからだ。だがそれでも自由というものはとても気持ちが良かった。ナタリーに拾われてからは明日の心配はしなくて済むようになった。わがままで人使いが荒いがこちらの事情を深堀りしようとしないし、なんだかんだで世話にはなっている。ホルニッセは俺が鴇子であろうとなかろうといずれにせよ浜野家の人間を放ってはおかないだろう。きっと実家に戻れと説得してくるに違いない。あれのお節介は吐き気がするが、生憎俺はここを離れるわけにはいかないのだ。
そういえば以前ナタリーに何故ホルニッセのことが嫌いなのか聞かれたことがある。自分が狂うほど愛する人間のことを毛嫌いしている俺と組もうとするところは彼女の理解し難い点の1つだが、確かあの時俺は”なんとなく”と答えた気がする。”そんな適当な理由であたしのホルニを毛嫌いするなんてありえない!”とキレられたが、好き嫌いなんて感覚的なものだろう。それともあいつは何か明確な理由があってホルニッセに付きまとっているのだろうか…。