第1話 第2のポエム

文字数 1,970文字

体を犠牲にして詩を書く

私の命は詩に吸い取られて長くはない

それで本望だ

私の祈りは最後に詩集となる事

世界にただ一つの詩集となる事

誰か道に迷った人に道標となるような

そんな詩集になれたら私の努力は報われる

例え志し半ばで倒れても悔いはない














誰もが苦しんでいる

心に秘密を抱えて

今にもバランスを崩して

奈落の底へ落ちそうな

刃の切っ先を歩いている

明るい外見の下に憂いを隠して

弾けるような笑みの下に絶望を

僕の死を誰もが分からないと言うだろう

人柄の良い優しい人だったと言うだろう

僕はほんの少し向こう側へ傾いただけ…

 










あなたの姿は光の反射でしか見えない

あなたに触れても皮膚の感触しか感じられない

あなたの瞳を見つめてもそこに映るのは私の影

あなたと抱き合っても心は通じ合えない

あなたはいったい何処にいるの

あなたの心は何処にあるの

あなたは遠い彼方の幻の人

夢の湖に溶け込めば一つになれる














死の使者が来たんだね

分かっているさ

誰だって明日をもしれぬ命

目を逸らして生きている

でも死が近づいたなら

目を凝らして見つめたい

生まれる時は泣くしかできなかった

死ぬ時はギリギリまで意識を保ちたい

私には自分の生が全てだった

だから私の死は宇宙の死

この至福の時を味わいたい













二十歳の時

僕は彷徨いの最中にあった

未来は知れず困難な壁があった

夢は遠い彼方にあり叶う術もなかった

だが夢を追って疾走する若さがあった

まだ本は始まったばかり人生の序章だった

それがいつか疲労と倦怠に襲われるとは
思いもしなかった

いま目を伏せ溜息をつき

遠いあの日を思い出す















感受性を研ぎ澄まし

想像の中であらゆる事を体験せよ

眠ろうとする心を叩き起こせ

我々は能力の数%しか使っていない

怠惰に打ち勝て

心はすぐに自分を冷笑する

お前などどれほどのものかと嘲笑う

自分に打ち勝て

自分の最大の敵は自分

歪んだ鏡を叩き割れ

生とは燃え上がる炎

限りを尽くせ















時間が流れていく

私を置き去りにして

遠い過去から未来へと流れていく

私はそこにいない

外界は無関心な表情で通り過ぎる

私は誰にも見えない

私だけ異空間を生きている

手を伸ばしても虚空をつかむだけ

私は孤独な異邦人

永遠に過ぎ去る旅人

あなたと同じ時空を生きて抱き合いたい















余命を告知された時たまらなく
初恋の人に会いたくなる

彼女は僕の夢の中で自由に生きていた
初めて会った11歳の少女になったり
20歳を過ぎた女性になったり

もし生きていたら僕と同い年
それはとても想像つかない

真の姿を知ることで
夢の中の彼女は
死んでしまう

それでもいい
彼女に会いたい















何をしても心が痛くなる
人の眼差しが声が素振りが
いちいち気になって痛くなる

だから僕は心のサングラスをしているんだ
何もかも曖昧にしたいから

世の中は眩しすぎる
だから暗くなってくると落ち着くんだ

心が優しくなり詩も生まれる
僕は昼間と夜の自分を
使い分けている
心が壊れないために。

















幸せすぎて
 あなたの胸に抱かれていると
 いつまでも生きられそうな気がする

幸せすぎて
 小さな幼子を抱いていると
 やがて来る永遠の別れが怖くなる

幸せすぎて
 幼子を育てた乳房の病で死ぬことが
 とても申し訳なく思ってくる

幸せすぎて
 あなたと幼子を愛した日々が夢のよう

   
  「小林麻央様へ 詩を捧げます」















少女は風の吹き抜ける丘にいた
長い髪を風になびかせ遠くを見ている

少年は別れの予感を感じ心が重くなる
少女は儚げな視線を彼に向けた

少女は彼に何かを言った
でも風の唸りがかき消してしまう

「私、死ぬの」
でも彼には何も聞こえない
その言葉は風になって消えていき
少女の姿はもうなかった











死の跳躍を夢見ていた日
あれは若い頃の激しい衝動

この世で生きることの困難
その重圧に心は耐えられない

若い願望は全否定された
僅かな恋の期待も破れた

私はもう生きられない
屋上で最後の景色を見る

流れない涙が伝う
最後の一歩を待っている

私は目を閉じ踏み出す
地の底まで堕ちてゆく















私はやっと老齢の落ち着きを取り戻す
深夜は人を物狂おしい気持ちにさせる

夜が明けるにつれ穏やかな老人に戻る
諦念に達した柔和な黄昏の表情に戻る

でも知っている
明日深夜に目覚めたら
再び狂熱の激情に囚われることを

その激情は世界さえ滅ぼさんとすることを
夜の魔法は私を暴君に変える














私は母校へ行った
何もかもが懐かしかった
門の所にマリア像と天使像が新しく建立されていた
A大を象徴する図書館の建物は記念館となっていた
フランス文学科の40人ほどの同級生のうち男性が5人だけだった
最初の授業の後シュルレアリスム研究会に入らないかと誘われた
入っていたら人生が変わっていただろう














この世で一番怖いのが人間

どんなに信じていても欺き
どんなに愛していても裏切り
どんなに殺したくても殺される

人間の頭に原爆を落としたのも人間
人の心の悪魔は今日も唸り声を上げる

食べるために殺し 遊ぶために殺し
飽きたために殺し 殺すために殺す

人間の業の浅ましさよ
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