頭狂ファナティックス

黒塗ほのか②

エピソードの総文字数=2,252文字

パパ、その娘が着ている服って千五百ちゃんのものよね? 何でわざわざ千五百ちゃんのものを引っ張り出してきたの? 言ってくれれば、私のものを貸すのに。私のでも、千五百ちゃんのでも、どのみちサイズが大きくて合わないから同じでしょ。その娘、小柄だし。
 千陰が苛立ちを隠そうともせずに言った。
私が絹人さんにわがままを言って、千五百さんのものを着せて貰ったのですよ。しかし勘違いしないでください。千陰さんのものが嫌だった、という意味ではありません。
ええ、そうでしょうね。私ときみは初対面。好きも嫌いもないでしょう。
千陰、無理を承知で言うが、ほのかに突っかかる真似はよしてくれ。これからはほのかを家族同然に扱う。つまりお前にも千五百と同じく、妹として扱ってほしい。
私が黒塗さんを受け入れられないのは、パパたちが何も話してくれないからでしょう。
わかっている。しかし今はここにほのかがいる。状況は大きく変わった。だからお前たちには教えられることはすべて教えようと思う。同時に現時点では教えることのできない情報もある。それはお前たちに意地悪をするわけではない。役者が全員揃う前に知ると、お互いに不利益を被る情報もあるからだ。
役者? ここにいる人間以外にも、こちらの味方をしてくれる人間がいるの?
そのとおりだ。その人たちがどういう人間かはおいおいわかるだろう。ところで千一郎、三人にはどこまで話をした?
ほのかの存在は権力者のなかでも一握りしか知らないこととその理由。また忍谷くんと赤藤さんにはほのかの護衛を頼んだ。
よろしい。それならば順を追って説明しなければならないな。まずはほのか、きみの能力を三人に教えてあげてくれないか?
 ほのかは頷くと、自分のコンプレックスについて話し始めた。先ほど千陰に突っかかれたことについてはまったく気にしていない素振りだった。
私の能力は聞いていると思いますが、「未来を予言する」ものです。しかし何もかもを予言できるわけではありません。いくつか制限があります。その中でもっとも重要なものは、微視的な予言はできない、というものです。例えば、明日の忍谷さんの朝食は何か、のような些細な出来事は予言できません。私が予言できるものは巨視的な事象、つまり、今後の人類がどのような方向に向かっていくかです。2000年問題を予測できたのはこのためですね。
シンボルとコンプレックスの名前を教えてもらうことはできるか? できれば、実際にコンプレックスを使うところも見せてほしい。
 忍谷が聞いた。
それはできません。
理由は?
乙女の秘密です。
 ほのかはこの場に似つかわしくなく、人差し指を唇に当てながら、悪戯っぽく言った。その仕草に忍谷、千陰、詩音はそれ以上、ほのかのコンプレックスについて聞くことができなくなった。明らかに何かを誤魔化したからだ。その何かはわからなかったが。
ほのかの能力の説明も終わったところで、私がこれから東京で何が起きるか説明しよう。
 忍谷たちはほのかのコンプレックスについて腑に落ちていなかったが、絹人が話題を打ち切るように言った。
宇津木将臣の主導により、東京で封鎖政策が敷かれることは知っているな? この政策には日本政府の人間が総動員される。間違いなく日本軍も動くだろう。なぜ宇津木は東京を封鎖するのか? それはほのかの予言に従った結果だ。2000年前、世界の運命を変えた男を知っているか? その男はちょうど2000年前、誕生と同時に「世界の王」に選ばれた。
西暦0年。それはイエス・キリストのことを言っているのですか?
 忍谷が即座に答えた。
そのとおりだ。キリストが誕生した年には諸説あるが、実際は間違いなく、きっちり2000年前だ。そしてキリスト誕生のさらに2000年前、世界を支配した男がいる。こちらはわかるか? その在位期間は紀元前2600年前後が有力とされているが、紀元前2000年前後とするのが正しい。
それはギルガメッシュのことですか? メソポタミアの王だったという。
忍谷くんは博識だな。正解だ。この二人は「世界の王」だった。そしてギルガメッシュ以前にも2000年周期で「世界の王」が現れていたと考えられる。それほどに歴史を遡ると、もはや記録には残っていないがな。なぜ2000年周期なのかはわからない。しかしこの世界は2000年ごとに「世界の王」が現れ、変革を起こすようにシステムされている。
 絹人のこの発言に忍谷たち三人は言葉を失った。話の規模があまりにも大きすぎたために、どのように反応をして良いのかわからなかったのだ。
 しかしここで絹人が嘘を吐く理由もわからない。忍谷は絹人の言葉が本当のことだと仮定して、話を進めるしかなかった。
キリストは「世界の王」に選ばれた、と言いましたよね? 誰が「世界の王」を選ぶのですか?
すまないが、どのような形で「世界の王」が決定するのかはわからない。しかしこれだけは言える。この二十世紀末、「世界の王」は東京から現れる。
それは黒塗さんの予言によるものですか?
そうだ。「世界の王」を選ぶ「何か」はこの二十世紀末、東京に出現する。そしてその「何か」はコンプレックスと呼ぶにはあまりにも超越した能力を「世界の王」に授ける。キリストやギルガメッシュの功績の一端はそれぞれ『新約聖書』『ギルガメッシュ叙事詩』に書かれていることだ。二人の持っていた能力の詳細までは知る由もないが。そしてほのかの予言によると、この二十世紀に「世界の王」に選ばれるのは葛籠未造だ。

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