第1話 登録

文字数 836文字

 毎日、日記を書いている。
 書いていて、自分の心境を整理することはできるし、読み返してみても撮りためたスマホの画像を見返しているときのように楽しい。スマホの画像データより、日記を失くすほうがショックが大きいのではないかと思うくらいだ。人生の節目で感じたこと、悩みや喜び、恥、諸々。取り繕って撮影した写真にはないものもすべて含まれているからだ。

 でも、それだけではなんとなく物足りない。自分の思考や感情を外部に吐き出したくなる。他人に評価されたいからだ。SNSはそんな気持ちの集合体なのかもしれない。しかし、私には私がわかる場面でそれを吐露するだけの勇気はない。他人の目が気になりすぎる人間にとってSNSを使って自分を表現するのはえらく恐ろしいことなのだ。情報をアップしたら、誰がいいねをしてくれたとか、いくついいねがついただとかそんなことで一喜一憂してしまうので、心が持たない。だから、旅行や買い物、外食に行ってもそれをネット上で報告することはないし、そっと日記にしまっておいて、近しい人に会った時だけ、つまみとして話すのである。
 そもそもその場で感じたことをSNSで知っている人に向かって吐き出した時点で自分が考えていたこととはすでになにか違っているから、発信する内容になんとなく違和感を感じながら発信している。そのことももどかしくて、苦手だ。
 
 そんな理由で私はSNSで人生の報告もしないし、自己を表現をしない。というより、できない。時代は他者に向けて表現することが当たり前になってきているのに!(もどかしい!)なくても生きていけるし(実際、SNSとはほぼ無縁で充実した生活を送る人もいる)、面倒がないので、それでもいいはずなのだが、なぜか物足りなく感じる。そんな面倒でどうしようもない人間が私なのだ。

 だから、他人に自分を評価されたくても、それをするだけの勇気がない人間は、こうして顔を隠してこっそりと思うままの文章を不特定多数に向けて書いてみようと思うのである。
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み