第67話 鈴木太郎とアマゾネス・ウーマンズ・パートナーシップ:2023年9月

文字数 1,233文字

(鈴木太郎が、アマゾネス・ウーマンズ・パートナーシップの立候補者メンバーシップに登録する)

2023年9月。東京。鈴木家。

鈴木は、焦りを感じていた。
「このまま行けば、どこかで、レガシー・システムは、トラブルを起こすだろう。そして、トラブルが起きれば、責任を追及されるだろう。それは、完全に濡れ衣だ。これは、どうみてもババ抜きだ。誰かが、システム障害というババを引く。鈴木は、自分がババを引くことを恐れているのではない。ババを引いても、問題が全く解決しないことを恐れているのだ。普通のババ抜きは、誰かが最後にババを引けば、そこで、ゲームオーバーになる。ところが、システム障害というババ抜きには、システムを総入れ替えするまでは、ゲームオーバーがない。

この問題を整理してみよう。

会社を、レガシー・システムを追放するように変えられる場合、勝算はある。しかし、これは、今回は問題外だった。

会社を、レガシー・システムを追放するように変えられない場合、どこかで、責任をとらされるが、問題は解決しない。システム障害がひどい場合には、濡れ衣で、処分を受けるだろう。結局、どこかで、辞めることになろう。ジェネラリスト養成という、無責任体制に乗っていれば、2、3年我慢すれば、システム障害リスクを抱えている危ない部署を離れることが出来る。しかし、鈴木は、ITの専門職として採用された。専門職は、T商事の中には、10人しかいない例外的な雇用形態だ。専門職は、基本的に、専門以外のポストには着かない。つまり、鈴木には、異動によって、責任逃れをする選択肢は残されていない。これでは、いつ爆発するかわからない爆弾を抱えて、歩き回っている自爆テロのようなものだ。爆弾が破裂すると怪我(減給)または、死亡(解雇)してしまう。システム障害を見れば、爆弾が破裂する確率は、日に日に高まっている。こうなると、解雇される前に、辞職する方が、ダメージが少ない合理的な行動になる。

問題は、いつ辞めるか、辞めて、次の仕事は何にするかである。欧米のようにまともな労働市場ができていれば、能力があって、格段に高い給与を望まなければ、次の仕事に困ることはない。しかし、日本には、労働市場はないに等しい。結局、これは、鈴木が、T商事に職を得る前の状態である。つまり、キャリアは振り出しに戻ったことになる。どうせ、振り出しにもどるなら、IT職にこだわることもあるまい。もっと幅広に、職を探してもいいわけだ」

こうして見ると、鈴木には、アマゾネス・ウーマンズ・パートナーシップの提供している政治家への道は、魅力的な選択肢に見えた。ユニバーサル・ジェンダー計画のスケジュールからすれば、1月までに、選挙があることは、ほぼ確実だ。5か月、頑張って、だめなら、そのときに、別の選択肢を考えても、たいしたロスにはならないだろう。
こうして、鈴木は、アマゾネス・ウーマンズ・パートナーシップの立候補者メンバーシップに登録して、活動を始めた。
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