1 ❀ 名を、日高萌栄。

文字数 1,289文字

西方忍聞録 おーぷにんぐ

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四月の青空の下、草木芽生え、花咲く山々はいろどりゆたかだ。

深い谷沿いの道を走る一台のワゴン車から少女は外をながめる。

としは十三才、名をだか


若葉萌えるように生き生きと栄えてほしいとの思いから付けられた。

   ✿        

1か月前のこと。

学校から帰宅した萌栄は、むずかしい顔をした両親にリビングのソファへうながされた。

二人は一通の手紙を見せた。

差出人は母の父、つまりは萌栄の祖父だ。


文面には「かけおちした二人の仲を許し、帰郷を切に願う」とつづられていた。

実は、萌栄に話さなきゃいけないことがあるんだ
(わたし)たち、実は忍者なの!
一体、どうしちゃったの……お母さん、お父さん

二人は自分たちが忍者だと信じこませるために、「風遁」だの「火遁」だのあやしげな言葉をつぶやきながら、空気砲を放ったりした。

萌栄も村に行く前に、忍術の予習をしよう
まずは形からよ。昔、お母さんが着ていたものだけど。
忍び衣装を着せられそうになり、彼女の堪忍袋の緒はとうとう切れた
大嘘つきのコスプレイヤー!! お父さんも、お母さんも、どうかしてるわ!
(忍者なんているはずがないわ。両親がなりきっているだけだよ!)
二人の生まれ故郷の九州にも「いかない、ここに残る」と主張したが、あれよあれよという間に飛行機に乗せられ、お空を越えた。

そんなこんなでやって来た、九州・宮崎

今向かっているのは、母の実家だ。

母がひとり娘なので、父が婿になるという。

市内から、谷沿いの道へと進む。

だんだんと谷底は深くなった。

道は細く、ガードレールの向こうは深い谷底だ。

カーブを曲がるたび萌栄はハラハラするが、運転手はあくびをかいている。

頭にヘアバンドを巻いた彼は、両親の友だちで、重黒木 功(じゅうくろぎ・こう)といった。

もうすぐ着くよぉ

功はのんびりと言った。

車が進むにつれ谷は浅くなり、川面が見えたころ、ひらりと花びらが舞った

桜って、こんなに大きいの?

道ぞいの桜は思うがまま枝をひろげ咲きほこっていた。

菜の花の黄色い花邑(はなむら)が、桜とともに風にゆれる。

一羽のウグイスが満開の樹から離れ、車にそうように飛んで鳴いた。


さらに進むと、日当たりの良い場所に、階段のような石垣の田んぼが現れた。

(教科書で見たことある! 棚田だ

田はまだ鋤かれておらず、うすむらさき色のレンゲソウが咲いていた。

田の向こうに広がる森は深緑色だ。

山里はさまざまな色が折りあい、もし絵に描くとしたらいくつ色が必要だろうと萌栄は考えた。

車は村の中央通りへと入った。

古民家や、食堂や商店、公共施設が集まる。

店の前や道ばたに、世間話をする人たちのほがらかな笑顔があった。

おかえり、(せみ)(かご)(むら)

ポンッ、ポポン、と神楽の太鼓と笛の音が聞こえてきた。


まるで「ようこそ」と萌栄を迎えるように。

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登場人物紹介

日高萌栄 (ひだか・もえ


中学2年生、13才の少女。

カピバラをこよなく愛する。

重黒木 鋼じゅうくろぎ・はがね


中学2年生、13才の少年。機械いじりが得意。

椎葉 発(しいば はつ)


中学2年生、13才。

萌栄の友達。花火師の孫。

黒木 殿下(くろき でんか)


萌栄のライバル

那須 雨音(なす あまね)


殿下の友達。

黒木 媛(くろき ひめ)


殿下の妹

日高 結芽(ひだか ゆめ)


萌栄のお母さん

日高 地平(ひだか ちへい)


萌栄のお父さん

日高 雲水(ひだか うんすい)


萌栄の祖父

重黒木 功(じゅうくろぎ こう)


鋼のお父さん

重黒木 理玖 (じゅうくろぎ りく)


鋼のお母さん

椎葉 康次(しいば やすじ)


発の祖父。花火師

黒木 智子(くろき ともこ)


殿下、媛のお母さん。

黒木 未夏 (くろき みか)


クラスメイト

中武 陽(なかたけ はる)


クラスメイト

那須 貴也(なす たかや)


クラスメイト

那須 由子(なす ゆうこ)


クラスメイト

お殿様。


西方の里を治める、お殿様。

南朝の忠臣、その子孫。

忠平(ただひら)


お殿様が助けた忍者。

加藤清正に仕えていたが、毒殺の濡れ衣をかけられ、逃げてきた。

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