22 3つの試練 2

文字数 4,638文字

 ヒロユキもコハルもどこかへ()かって歩いている。
 その表情(ひょうじょう)はどこか決意(けつい)()ちた表情(ひょうじょう)だ。

 女神(めがみ)がうなづきながら、
 「どうやら二人とも、自分(じぶん)(こころ)(かげ)にさんざんにけなされたみたいね」
 その説明(せつめい)()きながら、二人とも本当(ほんとう)大丈夫(だいじょうぶ)心配(しんぱい)になる。
 女神(めがみ)(わら)いながら、
 「あら? (しん)じられない? ふふふ」

 そうじゃないけど……。いや。やっぱりそうなのかな? 心配(しんぱい)よねぇ。

 「さすがは神獣(しんじゅう)正直(しょうじき)ね。……まあ見ていなさいな」

――――
 ヒロユキが歩いて行く先には一枚(いちまい)(とびら)があり、その前で(かげ)ヒロユキが()っていた。
 (かげ)ヒロユキはニヤリと(わら)い、
 「もう行くところなんだが、(はなし)があるならさっさとしてくれ」
 ヒロユキは(いき)を一つつき、(かお)を上げた。その目には(つよ)意志(いし)(かん)じられる。
 「お(まえ)()うとおりだ。……(おれ)無力(むりょく)さ」
 (かげ)ヒロユキはせせら(わら)う。
 「ほらな。だから――」
 しかし、ヒロユキは一歩(いっぽ)ふみだすと同時(どうじ)に、(かげ)ヒロユキの(こえ)をさえぎって、
 「だけど、お(まえ)とは交代(こうたい)しない」
断言(だんげん)した。
 「ふうん」
 「今は無力(むりょく)でも、(おれ)は。(おれ)(おれ)のままで(つよ)くなる。コハルや、みんなを(まも)れるくらい!」
 (かげ)ヒロユキは面白(おもしろ)そうにヒロユキの言葉(ことば)()いている。
 ヒロユキは(かげ)ヒロユキに手をさしのべた。(かげ)ヒロユキはその手を怪訝(けげん)そうに見つめる。
 「だからよ……。一緒(いっしょ)に行こうぜ。お(まえ)(おれ)なんだろ?」
 「ふ、ふふふふ。はははは! そうさ。(おれ)はお(まえ)さ。……だからよ。いつもお(まえ)の中で見てるぜ。失望(しつぼう)させんなよ」
 (かげ)ヒロユキはひとしきり(わら)うと、そのままヒロユキの体の中に()()まれるように()えた。
 一人になったヒロユキは、(こぶし)(つよ)(にぎ)る。
 「わかってるさ。(まか)せてくれ」
 そうつぶやくと、(とびら)に手をかけた。

――――
 一方、コハルの方のスクリーンでも、(かげ)コハルが(とびら)の前でたたずんでいた。

 「あら? 何の御用(ごよう)かしら?」

 コハルは、(かげ)コハルの前まで行き、正面(しょうめん)から相手(あいて)(かお)をじっと見つめている。
 「あなたの()うとおりよ。……(わたし)は一人じゃなんにもできなかった。それに、そんな自分(じぶん)(いや)だったわ」
 「ふうん。ようやく自覚(じかく)したわけね」
 コハルは決意(けつい)()めた目で、(かげ)コハルを見る。
 「でもね。あなたとは交代(こうたい)しないわ。(わたし)は一人じゃない。(だれ)かのために(わたし)ができることをする。……みんなで(つよ)くなる。それが(わたし)だもの!」
 (かげ)コハルは面白(おもしろ)そうにコハルを見つめた。
 「なるほどねぇ」
 コハルは(かげ)コハルに(ちか)より、両手(りょうて)(ひろ)げて(かた)りかける。
 「だから、あなたも(わたし)協力(きょうりょく)して。……もっと(わたし)もしっかりするし、一緒(いっしょ)に行こうよ」
 それを()いた(かげ)コハルはニヤリと(わら)った。
 「それがあなたの結論(けつろん)ね。……()いこと? 協力(きょうりょく)することと依存(いぞん)することは(ちが)うのよ? ちゃんとあなたの中で見ているからね。ダメだと思ったら、すぐにあなたを()()るからね」
 コハルがにっこり微笑(ほほえ)んだ。
 「もちろんよ。だって、あなたも(わたし)だもの」
 (かげ)コハルは、
 「わかってればいいのよ」
と言いながら、両手(りょうて)(ひろ)げたコハルの中に()()まれていった。
 コハルが(こぶし)(にぎ)る。
 「ええ。ちゃんと見ていてちょうだい。あなたがいる(かぎ)り、(わたし)は一人じゃないんだから」
そうつぶやいたコハルが(とびら)(ひら)いた。

――――
 月の女神(めがみ)が、ぱちぱちと小さく拍手(はくしゅ)した。
 「お見事(みごと)ね。二人とも勇気(ゆうき)試練(しれん)はクリアしたわ」

 (わたし)もスクリーンで見ていて、思わずそっと(いき)をはいた。よかったわ。(とく)にコハルなんてどうなるかと……。

 ふと気がつくと女神(めがみ)面白(おもしろ)そうに(わたし)を見ている。
 「そろそろ、あなたも行かなきゃいけないでしょ?」

 あっ。そうだわ。……でもどうすればいいのかしら?

 「安心(あんしん)して。……だってあなた、もう半分(はんぶん)くらい(わたし)たち神様(かみさま)みたいになってるから、ただ(ねん)じればいいのよ」

 (ねん)じれば?

 「そう。……二人のところへってね」

 なるほど。……女神(めがみ)(さま)。二人はこの試練(しれん)で一つ(つよ)くなったわ。ありがとう。

 女神(めがみ)は手を()って、
 「お(れい)なんていいって。……二人が自分(じぶん)()()えたんだから」

 ふふふ。でもありがとう。そろそろ(わたし)、行くわ。

 「ちょっとの(あいだ)だったけど、異世界(いせかい)からきた(ひと)? とお(はな)しできてよかったわ。(たの)しんでいってね」

 ええ! じゃあ、またいずれ。
 (わたし)女神(めがみ)にそう言うかけると、そっと(ねん)じた。――二人のところヘ!

――――
 女神(めがみ)転移(てんい)していったユッコを見送(みおく)ると、(ふたた)(こと)に手をそえた。
 「異世界(いせかい)神獣(しんじゅう)ユッコか。……ふふふ。今度(こんど)会ったときには、是非(ぜひ)、あのつややかな毛をモフらせてもらわないとね」

 そして、(こと)をかき()らし、(うた)(うた)()した。

――――
 すっと転移(てんい)した先は洞窟(どうくつ)のなかの小部屋(へや)。どうやらあの大きな門をくぐった先の小部屋(へや)みたいね。

 ヒロユキとコハルも同時(どうじ)転移(てんい)してきて、慌ててキョロキョロと(まわ)りを見まわしている。

 おや? こうして二人を見ると、まるでレベルが上がったかのように存在感(そんざいかん)(つよ)くなっているのがわかる。
 やっぱり勇気(ゆうき)試練(しれん)()()えたからだろうね。
 「コハルもユッコも無事(ぶじ)だったか?」
 「ええ。ヒロユキも?」
 ――それから二人はどんな試練(しれん)があったかを(はな)し合っていた。

 この部屋(へや)(てき)もいなくて安全(あんぜん)なようだけど、なにやら(つぎ)(とびら)のところに水場(みずば)がある。
 ……どうやら知恵(ちえ)試練(しれん)みたいね。

 次の部屋(へや)(とびら)に行くと、その(とびら)にはこう()いてあった。



 (かわ)べりに小舟(こぶね)が一つおいてある。
 そこへ、オオカミと(ひつじ)()れ、リンゴの(はい)った(ふくろ)()った男がやってきた。
 小舟(こぶね)(ちい)さく、一度(いちど)に、(おとこ)ともう一つの荷物(にもつ)しか(はこ)ぶことができない。しかも、オオカミと(ひつじ)だけにすれば、(ひつじ)はオオカミに()べられてしまう。(ひつじ)とリンゴだけを一緒(いっしょ)にしておけば、リンゴは()べられてしまう。
 (おとこ)無事(ぶじ)荷物(にもつ)をうしなうことなく、むこう(ぎし)(わた)るためには、何回(なんかい)(かわ)横断(おうだん)しなければいけないだろうか。

 この(さき)(すす)もうと(おもう)(もの)は、その回数分(かいすうぶん)だけノックせよ。
 もし間違(まちが)えたならば、たちまちにこの部屋(へや)は水に()ざされるであろう。」



 リドルだ。見ると、問題(もんだい)(ぶん)(よこ)にドアノッカーがついている。
 ……厄介(やっかい)ね。
 整理(せいり)してみましょうか。
 1.一度(いちど)小舟(こぶね)()れるのは、(おとこ)荷物(にもつ)一つ。
 2.オオカミと(ひつじ)だけにしてはいけない。
 3.(ひつじ)とリンゴだけにしてはいけない。

 ヒロユキとコハルはリドルを()んでうなっている。
 えっと。多分(たぶん)(あたま)の中だけで(かんが)えてると無理(むり)っぽいわよ?
 そう(おも)って二人を見ていると、ヒロユキが、
 「わからん……。コハルは?」
 「さっぱりね。どうしよっか」
 ……全然(ぜんぜん)、ダメって(かん)じね。仕方(しかた)ない。ちょっと手伝(てつだ)いましょうか。

 (わたし)は足のツメを出して、地面(じめん)二本(にほん)(せん)を引いた。
 するとヒロユキとコハルがこっちを見る。
 ()らんぷりして、(ゆか)にころがっている石を四つくわえて、(はし)っこに()いた。
 それを見たコハルが、「あっ」と何かひらめいたようだ。

 「そっか。(せん)一番(いちばん)左側(ひだりがわ)がこっちの(きし)一番(いちばん)右側(みぎがわ)()こう(ぎし)(せん)(せん)(あいだ)(かわ)ってことね」
 ヒロユキも(わたし)が何をしたいのかわかったようで。
 「なるほど。で、この石が、男とオオカミと羊とリンゴってわけか」
 「実際(じっさい)(うご)かして(かんが)えてみましょ?」

 それから二人はああでもないこうでもないと言いながら、石を(うご)かしている。
 (わたし)(すわ)りながら、二人が(こた)えを出すのをじっと()つことにした。
 これも二人の試練(しれん)だからね。

 ちなみに(こた)えは7よ。わかるかしら?

 まず男が羊を(はこ)ぶ(1)。
 一人で(もど)ってくる(2)。
 次にオオカミを(はこ)ぶ(3)。
 羊を()れて(もど)ってくる(4)。
 リンゴを(はこ)ぶ(5)。
 一人で(もど)ってくる。(6)
 羊を(つれ)れて(わた)る(7)。

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登場人物紹介

神獣である九尾の狐。仲間を大切にする心優しい性格で、今はとある事故に巻き込まれてコハルという少女の召喚獣となっている。

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