第17話 こんな双子、アリですか?

文字数 3,213文字

 二週間後の昼休み。

 僕とあずきのクラスにみるくがいつものようにやって来る。明治さんと佐々木さんも一緒だ。

 友人の渡部を加えて六人で机を繋げて作ったテーブルを囲む。椅子の数は七脚。

「こんにちはーっ」

 少し遅れて別のクラスから江崎さんが現れる。この数日の間に彼女は僕たちとお昼をともにするようになっていた。

「また来た!」

 あずきが露骨に嫌そうな顔をする。

 江崎さんはそれを無視してあずきが置いてあった大きな包みをひょいと持ち上げ、少し離れたところに動かしてしまう。空いたスペースにお重のような弁当箱をどんっと置いた。数えてみると五段重ねだ。

「羽田くんのために心を込めて作りました」

 あずきを押し退けると僕の隣に座る。僕の右隣にみるくがいるのだが、江崎さんはいつもあずきのいた左隣を狙ってくる。

 あずきもやられっぱなしではない。

「昨日はえっちゃんに席を譲ってあげたじゃん。今日はあたしの番だよ」
「あずきさん、羽田くんの隣は彼女である私の場所なんですよ」

 江崎さんがにこりとする。

「それに本当にあなたが羽田くんを好きなら、誰かに場所を譲るなんてできないはずです」

 ぐぬぬ……。

 そんな呻きが聞こえそうなくらいあずきが悔しそうにする。江崎さんはあずきの悔しさなど全く意に介せず涼しい顔だ。

 江崎さんのお弁当が広げられる。こう言っては何だけど、この人年齢詐称してないだろうな?

 黒豆に筑前に、佃煮、エビフライに唐揚げに豚の生姜焼き、焼き鮭、小松菜のおひたし、野菜炒め……などなど数種類のおかずが重箱を埋め尽くしている。和洋中の統一なんぞ完全にシカトした極めてカオスな内容だ。

「いろいろ食べてもらいたくて、ちょっと頑張りました」

 江崎さんがはにかむ。

 つーか、これで「ちょっと」なの?

 僕だけでなくまわりのみんな(あずきと佐々木さんを除く)も呆気にとられている。

「か、数があればいいってもんじゃないもん」

 あずきが言い、自分の包みを開ける。本日のお弁当は特製巨大お握りだけだ。それは僕とみるくの分も一緒で、まあ僕たちの弁当をあずきがこしらえたのだからやむなしである。

 おかずはお握りの具のみだ。

 なぜか?

 それは昨夜みるくが食材の大部分を炭化させてしまったからだ。どうしてそんな事態に陥ったのかはみるくとあずき、そして僕の名誉に関わってくるので伏せさせてもらう。このことはみんな墓まで持っていかねばならぬトップシークレットだ。

「……」

 あずきの手が素早く伸び、江崎さんの重箱から唐揚げを掴む。

 そのまま口の中にイン。

「あ、勝手に食べないでください」
「……」

 もぐもぐと咀嚼してごっくん。

 あずきの採点は?

「普通」
「はぁ?」
「あたしのほうが美味しい」

 あずき、そういうのは現物を用意して発言したほうがいいぞ。

 僕はそう思いながらお握りを食べ進める。ふむ、このお握りにはチーズが入っていたか。

 隣でみるくもお握りと格闘中だ。どうやら具は梅干しのようだな。まともすぎてつまらないぞ。

 そう思いつつ一つ目を食べ終え二つ目にとりかかる。

「あんた、そんなにがっついて食べなくてもいいでしょ」

 僕の正面に座る明治さんがたしなめる。

「あと、どうしてもおかずが足りなければ私の分もあるからね」
「えっと、それ食べてもいいの?」

 明治さんのお弁当は手作りらしきサンドイッチと一口サイズのハンバーグ、タコさんウインナー、レタスとトマトのサラダ、それとウサギさんにカットしたリンゴだ。

 品数は少ないけどこれまた美味しそうである。料理とか苦手そうなイメージがあったけど……うん、何かごめん。

 飲み物はパック牛乳。

 その豊かなDカップをさらに成長させたいのかな?

 欲張りさんだなぁ。

 とか思っていると視線に気づいた明治さんが恥ずかしそうに腕を組んで胸を隠した。

「じろじろ見ないでよ」
「あ、いや、つい」
「つい?」

 冷ややかな目に僕は気圧される。

「あれよね」

 みるくと明治さんに挟まれて座る佐々木さんが言った。

「羽田くんておっぱい好きだょね」

 うんうんと渡部がうなずく。こいつはあずきと明治さんの間の席だ。

 ちなみに佐々木さんは小さなお弁当箱にご飯とおかずをバランス良く詰め込んでいてパックのウーロン茶を飲んでいる。渡部は焼きそばパンとコロッケパン、そして1リットルサイズのコーラという昼飯だ。早くもコロッケパンの三分の二とコーラの半分が消えている。それにしてもカロリー高いよな、この組み合わせ。

「私くらいのサイズはどうなの?」

 と、佐々木さん。

「Cカップだと羽田くんの食指は働かないかな?」
「いや、そんなこと聞かれても……」

 僕の目線が明治さんのと佐々木さんのとを行ったり来たり。

 ギュッ!

 脇腹を思いっきりつねられる。

「痛いったたたたた!」

 犯人はもちろんAカップ……じゃなくてみるくだ。

「どうせ私なんてまな板ですよ」

 拗ねて言いかたがおかしいぞ。

「あんたねぇ」

 明治さんが深くため息をついた。

「女子を胸のサイズだけで判断するなんて最低よ」
「いや、そんなアホなことしないから」
「あによ」

 また黒縁メガネの奥が鋭くなる。

「変態のくせに文句あるの?」
「……ありません。ごめんなさい、ついでに言えば明治さんのDカップに見とれてました」

 あえていらんこと付け加えてみる。

「……」

 明治さんが困ったような、それでいて嬉しそうな表情になる。彼女は腕組みを解いてパック牛乳に口を付けた。

 ……まだまだ育つかな?

 ギューッ!

 さっきより強く脇腹をつねられる。

「痛いったたたたたたた!」

 犯人は何食わぬ顔でパックの緑茶を飲んでいる。

 いや、お前は牛乳にすべきだろ。

 ★★★

「「じゃーん!」」

 僕の家のリビングに可愛らしい双子の声がハモる。

 今日は江崎さんが自宅に帰ってしまい、明治さんも用事があるとかで放課後は別行動だ。

 そのため僕はみるくとあずきと三人で帰宅していた。

 ここ数日は江崎さんか明治さんのどちらかあるいは両方もついてきていたので僕たち三人だけで時間を過ごすなんて久しぶりな気がする。

 僕のスマホの待ち受け写真を撮りたい、と言いだしたのはみるくだった。

 そういえばそんなこと話したな。

 で。

 僕の前には黒くて丈の短いワンピースに黒いとんがり帽子をかぶったみるくとこれまた黒いタキシードに黒いマントをはおったあずきが並んでいる。

 どう見てもみるくのほうが女の子っぽいんだけどあずきはそれでいいのかな?

 あと、みるくの黒いニーソックスが妙にエロいんだけど指摘したほうがいいのかな?

「空」

 あずきがマントで口を隠す。

 その目が笑む。

「あたし、空の血を全部吸いたいな」
「……」

 あずき、それ怖いよ。

 しばらくはこいつに吸血されないように気をつけよう。

「な、なら私は……」

 魔女のコスプレは平気だったくせにここにきてみるくが顔を赤らめる。

「私は空にチャームの魔法をかけちゃおうかな。これなら空もメロメロ。私以外の女なんて見えなくなっちゃうんだからね」

 妙にすらすらとセリフが出てくるな。ひょっとしてこっそり練習したのか?

 聞いてみた。

「そのセリフ練習したのか?」

 みるくが首を振る。

「そ、空を楽しませたい一心で言ってみただけよ」

 上目遣いで僕を見つめる。

「こういうの、嫌?」
「い、嫌じゃないけど」

 どぎまぎする僕にみるくでなくあずきがいきなり抱きついてくる。

「空っ、吸わせて!」

 容赦なくその豊かな双丘を押しつけてくる。

 くっ、こいつもチャームの魔法が使えるようだな。

 くらくらするぞ。

「えへへーっ」

 だらしない声を上げるあずき。

「……」

 みるくが無言で反対側から身をすり寄せてくる。

「……べ、別にあずきが羨ましくなったとかじゃないんだからね」

 うん。

 これじゃ、撮影どころじゃないな。

 僕は双子の美少女姉妹に抱きつかれながら苦笑する。

 えっと。

 こんな双子、アリですか?


 了。
 
 
 
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