お一人様とお一人様(前編)

文字数 1,431文字

俺の名は安藤野雲(あんどうのうん)

とある工業大学のM1生だ

大学の夏休みは長い

うちの場合、8月と9月がほぼ丸々休みとなる

まあ、びっちり研究に明け暮れる学生も少なくないが、俺の所属している研究室は、教授の方針で基本的にほとんどの日数を休める

なんでも「休める時にガッツリと休むからこそ、その分普段の研究に全力投球できるのだ」そうだが、そのせいで前倒しで研究を進めないといけなくなり、先月までは中々キツい状況だった

俺としては、もっとバランス良く進めたかったのだが……長には逆らえん

おかげで今は毎日ひたすらと自由な日々を過ごしている

彼女なし、友人なしな孤独な男が、ぽんと2か月も休みを与えられた状況だ

普通なら持て余してもおかしくないだろう

しかし俺は独りで過ごすことに慣れている

マンガ、アニメ、ゲーム、小説……積んでいた娯楽を少しずつ消化するだけで2か月を過ごすことは十分可能である

だがしかし!

……例えば、遠くの方から祭囃子が聞こえてきた時

あるいはテレビで『夏休みの過ごし方』みたいな特集を目にした時


俺は言いようのない不安に襲われてしまう

そんな時

俺は、ふらりと外に出る

テキトーに町をぶらつき、テキトーな飲み屋に顔を出してみる


そこであおる酒の沁みること……!

今日は、バスを使って少し遠出してみた

何となく、繁華街(とは言っても所詮、寂れた地方都市らしい規模だが)で飲みたい気分だったのだ

うむ。ここがいい
いらっしゃいませー!

お一人様ですかぁ?

あ、はい

(俺はいつだってお一人様さ)

それでは、こちらの席にどうぞぉ!
お一人様だが、カウンターではなくテーブル席に案内された

なるほど、見渡すと店内はガラガラだ

まあ、まだ5時過ぎだ。それも当然か

どれどれ、メニューはっと

……なるほど。ここはやきとりに力を入れているのか

ああ、因みに『やきとり』と言ってもここ室蘭では鳥ではなく豚を焼いたものを差し……

あれ? 安藤くん!?
はえ?
やっぱり、安藤くんだ
み、水戸さん??
帰省してなかったんだ?
あ、ああ……(そういや彼女、この辺にアパート借りてるんだったか)水戸さんこそ、帰らなくていいの?
うん、お金ないし……なんつって、夏フェス行ったり一人でお酒飲んでるヤツがなに言ってんだって感じかな。あはは
……よく一人で飲むんだ?
いやいや、たまーにだよ。たまーに!
そ、そっか
そうだよぉ
……じゃあ、今日会ったのは、わりと奇跡的だったりすんのかな
……
……(やばい! 今の発言はキモかったか!?)あ、いや、その
奇跡的かぁ。イイこと言うね、安藤くん
へ? そ、そうか?
こういう風に外でばったり顔合わせる確率ってどれくらいなんだろね
ど、どうなんだろう……
お客様、ご注文はいかがしましょう?
あ、えーっと……生とやきとり3本
かしこまりましたぁ!
ふう(……さて。水戸と遭遇するとは完全に予想外だったが、店員のおかげで間も空いたし、こっからは自然とお互いの空間で飲むことになるだろう……彼女もきっとそれを望んでるはず)
ねえ、安藤くん。こっち来なよ
ふぇ!?
もちろん、嫌じゃなければだけど……たまには、同期で語らわない?
いや、でも、俺みたいな雑味が……
雑味?
ああ、いや……!




じゃ、じゃあ……

やった! へへ、安藤くんとサシ飲みとかなんかすごく新鮮
生お待たせしましたぁ~


? あ、そちらに移られたんですね?

あ、はい
どうぞぉ~
それじゃ、予期せぬ同期会に……かんぱーい!
あ、かんぱい
(おいおい、展開に頭がついてってないぞ! 気合い入れろ、俺!)
つづく
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登場人物紹介

水戸洋子。とある大学の先輩。自称、孤高の女。B’zはよく知らない。

内藤恵。とある大学の後輩。明るいのが取り柄。B'zが好き。

稲葉浩志。とあるユニットのボーカル。歌が上手い。

日野三角(でるた)。内藤の同期生。基本、無表情。

安藤野雲。水戸の同期生。傍観者でいたい。

唐須雄飛。内藤の同期生。安藤の千倍キモイ。

出水夏太郎。妹のアレっぷりにいつも苦労している。

出水春子。明るいバカ。

月野兎。イケメン。

小路三郎。変人。

馬尻救世。極度の人見知り。

フェス姉さん。それ以上でもそれ以下でもない。

油井小和(ゆいこより)。水戸の中学時代の友人。態度がでかい。

TAK松本。とあるユニットのギター。作曲には自信がある

根古谷亜衣(ねこやあい)。唐須の幼馴染。

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