第6話:シャイ忍者

文字数 1,455文字

 ドンの腹部にへばり付いている黒いロボットはガスターよりも細身であり、忍者のような容姿をしていた。普通に立っていれば格好良い見た目であろうが、四肢を広げ大の字でしがみ付くその様は、お世辞にも格好良いとは言えなかった。
「この子がロキソさんなんだ?」
 まじまじと見つめてくる茉莉と視線が交わったロキソはビクンと身を震わし、その視線から逃れようとドンの背後へシャカシャカ移動。とても格好が悪かった。
「私嫌われちゃったかな?」
「違うわ。この子、茉莉ちゃんと同じで人間嫌いというか、怖いのよ」
「なんと、それは気が合う。是非ともお友達になっていただきたい」
「えぇ……」
 妙なところでポジティブシンキングな茉莉に対し、ガスターはちょっと引き気味だ。
「ほら怖くない、怖くない……」
 そっと床に降ろしたドンの背後へ茉莉はゆっくりと手を差し出す。数秒の間があき、ふかふかのドンの肩から、そろそろとロキソが顔を出した。己に向けて差し出された手と、優しく微笑みを浮かべる茉莉の顔を交互に見やる。暫く葛藤した末、ロキソは全身を小刻みに震わせ、恐る恐る彼女の手の平に乗って来た。この場面だけを見た人は、これはハイテク戦闘ロボットではなく、か弱い小動物だと勘違いするだろう。
「ほらね、怖くない」
 ちょこんと体育座りをしたロキソを両手でふんわり包み、自分の目前へ上げた茉莉。心なしか彼女が柔らかな黄金の光をまとわりつかせているように見える。ちなみに今日の茉莉は蒼色のワンピースを着ていた。
「おおお……、その者蒼き衣を纏いて金色の野に――」
「ストーップ! それ以上続けちゃダメよボルタ!」
 自然と言葉が溢れ出したボルタを、ガスターが間髪入れずに止めた。
「何故ゆえ?」
「アタシもよく分かんないけど、それ以上は色々マズイことになるって感じるのよ!」
 なにか大人の事情を察していたガスターだった。

「初めましてロキソさん。私は茉莉っていうの、よろしくね」
 ミニコントを繰り広げていたガスターとボルタの横では、茉莉の自己紹介が始まっていた。手の平の上でいまだ体育座りをしているロキソは、茉莉を暫く見つめたあと、ふるふると首を左右に振った。
「よろしくしたくない?」
「……!」
 残念そうに問いかける茉莉へ、ロキソは先ほどよりもスピードアップした高速ふるふるを披露した。
「ロキソさん、そんなに首振ったら目が回るよ」
「……さん――」
「え?」
 ボソリと小さく聞こえたロキソの初発声に、茉莉は思わず聞き返す。
「“さん”はいらない……。“ロキソ”で、いい……」
 ロキソは恥ずかしそうに己の膝頭へ顔を伏せ、先ほどよりも若干大きな声を出した。とんでもないシャイボーイだ。しかし茉莉はちゃんと喋ってくれたことが嬉しいのか、困り顔から微笑みへと転じた。
「呼び方が嫌だったの? そっかー。じゃあ、よろしくね、ロキソ」
「!」
 伏せていた顔を上げたロキソは、茉莉と目を合わせてコクリと頷く。瞬間、嬉しそうに目を輝かせた茉莉は、ロキソを乗せた両手を頭上に掲げ、背後のガスターへ振り向いた。
「ヴパ様、この子わたしに――」
「ダダダダダメェーーーーーーーーーー!! 茉莉ちゃんストーーーーップ!!」
 先ほどよりも“大人の事情危険度”が増しているように感じたガスターは、半泣きで茉莉の発言を止めた。

 自称ハイテク戦闘ロボ達と、人間嫌いOLの新生活が今ここに幕を切って落とされた。ボケ3人に対し、突っ込み1人。これからガスターの神経がどんどんすり減っていく未来しか予想できない真夏の午前である。
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