トミちゃんからの便り

文字数 622文字

 志村様
お元気かしら。
私は、正彦と自分が生まれ育った北国で、余生を送ることにしました。
四月だと言うのに、なかなか雪が解けてくれません。

ところで、あの秋葉原の一件で、カオルンさんにご迷惑をかけてしまったこと、
心からお詫び申し上げます。

ひとは誰しも孤独だと言うけれど……、
カオルンさんと過ごせた半年間だけは、自分が人並みに孤独であったことを、
全力で忘れることができたと思います。
本当に有難う。

最後に……
近い将来、カオルンさんが孤独に陥ったとき、本気で寄り添ってくれるひとが現れますように。
                                 日向とみ子


 駅から降りてすぐ見上げたところに、クリーム色のマンションが建っている。自然と目線は最上階の部屋にいく。
 仕事から帰ってくるたびにほっと安堵することもあれば、チクリと心を刺す日もあった。
 一年経過しても、その習慣はなかなか消えることがない。
 もう潮時なのかもしれない。そろそろ、引っ越しを考えないと……。
 そう思い始めた頃、切手が貼られていない封筒が郵便ポストに入っていた。
 差出人を見ずとも、それが誰からなのかピンときた。
 カオルン、「さん」って……。
 トミちゃんは気づいているのだろうか?いままで、私をそんなふうに呼んだことがなかったことを。
 正直、私にはトミちゃんが、北国よりもはるか遠くへ行ってしまったような気がするんだよ。
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登場人物紹介

志村九龍(シムラカオルン)

【カオルン】


悩み多き女性書店員。

ひょんなことから日向とみ子と出会い、友情が芽生える。

かつて〈ハーメルン〉に心惹かれていた。

日向とみ子(ヒュウガトミコ)

【トミちゃん】


グレイヘアの婦人。

駄洒落が好き。

マンションの最上階に住む。

カオルンの良き相談相手。

最近はまっていることがあるようだが……。

マキシム(旧名:志村真紀)


カオルンの飼い猫。

ロシアンブルー。

甘えっ子。

美しい。

井上


カオルンの婚活デートの相手。

第一印象はいいが性格に難あり。

ツクモ


ドレッドヘアの男。

自称画家として気ままに生きる。

偶然会ったカオルンと意気投合し交際するが……。

〈ハーメルン〉


千代田区を拠点として路上ライブを行う。

十代から四十代の幅広い年齢層のファンが支持している。

CDは出さない主義。

しばらく消息を絶っていた。

近藤


日向とみ子の『お友達』。

大学生。

ヲタク。金欠。

宮本一紗(ミヤモトカズサ)


精神に疾患のある兄を持つ。

絵が得意。

訳ありでバニーガールの仕事をするが……。

一紗の兄


精神に疾患がある。

祖父母の家から施設へと預けられた。

妹のおかげで心を開いていく。

賢太郎(ケンタロウ)


北国生まれ。

シンガーソングライター。

一紗とは運命的な再会を果たす。

昇太郎(ショウタロウ)


青森生まれ。

賢太郎とは瓜二つで、出会い鼻から

意気投合する。

一紗の夢を応援している。

正彦(マサヒコ)


ホームレス。

物語の重要な局面に登場する……。

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