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文字数 546文字



子どもの頃から父は偉大だと教わってきた
遠く離れた都会の街で誰かのために
命がけで働いているという正義の味方
いつしか僕の夢は
父と同じ場所へ行くことになった
勉強も苦じゃなかった
強くならないと、と
たくさん食べてたくさん運動もした
それも全部父に並びたかったから
そして正義の味方になって
強い大人になりたかった
でも現実は否応なしに僕に降りかかった
知らない大人が僕の名前を見て挨拶に来た
はじめに行った場所もその次に行った場所も
だれも僕を僕として見てくれなかった
父のことがいつの間にか大嫌いになってた
使われるくらいなら贖おう
僕は僕なのだから
次にたどり着いた場所は何もかも
新しい場所だった
まともな人が誰一人いないように感じた
顔を合わせたその日に
疎外感以上の衝撃を受けた
ここにいる怖さとどうしようもない高揚感が
一気に僕を飲み込んだ
ここにいるのはこの街に来て初めて見る大人たちだった
父より父らしく息子のように
扱ってくれる相棒が隣にいてくれる
卑屈になってた僕に道筋を見つけてくれた
先輩に認めてもらいたくなった
僕よりうんと年上なのに僕より時に子どもで
それでも誰より真っ直ぐにいてくれる
同僚にも出会えることができた
この街に来て父に憧れた
嫌いになりつつあったこの仕事が
いつの間にか僕にとってかけがえのない居場所
僕の心の居場所


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