第4話「ええなあ脳金! いつでもお金出せるやん!」

文字数 2,484文字

―酒場―


ええと……本当に良いんですか?

見ず知らずの俺たちにごちそうしてもらって

見ず知らずなんてことないっすよ。

お二人には危ないところを助けてもらったっす。

それに自分の親がこの店の店主なんで、遠慮することはないっす!

そーそー遠慮しなや! めったにないタダ飯の機会やで!

あ、店員さんこの店で1番高い料理を上から5つ

お前はもっと遠慮しろ。遠慮を辞書で引いて100回復唱してくれ
遠慮? 知ってるよ。売られへんやつやろ?
世の森羅万象を「売れる」「売れない」で分類するな
あははは! 面白いっすねお2人は!
俺は面白くないんですけど
そういえばまだ聞いてなかったっすね。

お二人の名前はなんて言うんすか?

ウチは岩鬼正美や。正美でええよ
(こいつ、マジでドカベンのキャラ名を失敬しやがった)
イワキ、マサミさん? この辺じゃ聞かない名前っすね。

お兄さんの方は?

兄ちゃんはノブ子って言うんや
井脇ノブ子じゃねーか!! 岩鬼と繋げて変な名前にすんな!!
やる気、元気?
井脇ー! って何やらせてんだ!!
……??
ほら、ハイロさんに伝わってねぇだろ!

すみませんね、妹が……。俺はニアです。よろしく

ええと、マサミさんと、ニアさんでいいんっすね?

よろしくっす!

(兄→アニ→ニアか。偽名にしては安直すぎやろ)

ニアさんもぜひ好きなものを頼んでほしいっす!

お金なら大丈夫っすよ

すみませんね、なんか……
っかー! これやからお金持ちは大好きやで!

ほら兄ちゃん、ちゃんと「ま」のつくモン頼みや?

ん? なんで「ま」のつく物限定なんだ?
兄ちゃん「間抜け」やないの
うるせぇよ! 仮に間抜けだったとしても

「ま」のつく物頼んだところでどうにもなんねーだろ!

あははは! 面白いっすね~!
俺は面白くないんですけど
じゃあ兄ちゃん、「ま」が嫌やったら「ふ」のつく物頼もう
「腑抜け」って言うんだろ?
「ふがいない」
クソッ! そう来たか!
それでお二人は、どういう目的で旅をしてるんすか?

漫才を披露する大道芸人なんっすか?

違います
そやで
違います
ウチらはなぁ、ギルドのリーダーに会うために旅しとるんや
へぇ、ヨミドさんに会うんっすか
そう、ヨミドさんや! ウチはあの人に助けられたことがあってな?

その時のお礼を直接言いに行こうと思ったんや!

どんないきさつで助けられたんっすか?
いやーそれがな。あれはもう1年くらい前やねんけど、

あの時ウチらのお母さんが謎の奇病にかかったんや

謎の奇病
そう。それも命に関わる病気でな。

お母さんも「あぁ苦しい、苦しい」って痛い思いをしてたんよ

……
街から腕の良い医者を呼んでもお手上げやって言いよる。

ああもうダメか……そう思ったときに現れたのが

ヨミドさんだった、ってことっすか!
……そゆことや!

たまたま通りすがったヨミドさんが駆けつけてくれはったんよ。

ヨミドさんは容態をひと目見ると、病名をピタリと言い当てたんや

さすが大魔法使いのヨミドさんっす!
そんですぐに薬を調合してウチに渡した。

ウチがそれをお母さんに飲ませると、数日で良くなっていったんや!

効果ばつぐんっすね!
そうよ。そんでお礼を言おうとしたんやけど、

ヨミドさんはその前にどっか行ってしまったってわけよ

ははあ。忙しい身らしいっすけど、

お礼を聞く前に行ってしまうなんて男らしいっすね~!

せやろせやろ!

そこでウチらはいつかお礼を言いに行こうと誓ったんや

なるほどっす!
で、ウチの兄ちゃんが強なってきたから、

今の兄ちゃんと一緒に行けば危険な道中も安心やと。

そー言うわけで、今になってお礼参りに行くことになったんや

良いお話中悪いけど、お礼参りって報復って意味だからな?
元々は感謝する意味やからええねん。脳筋は黙っとき
俺の脳が筋肉で出来てるなら、

お前の脳は金で出来てなくちゃならないな

ええなあ脳金! いつでもお金出せるやん!
よくねぇよ! 頭から金を出せたら怪物だろ!
「お客さん支払いでーす」

「はいちょっと待ってやー、ザクッ! パカッ!

 ごめん細かいのしかないけどええかなー?」

みたいな?

細かいのってなんだ細かいのって!?

脳のどの部分を取り出してんだ!?

あはははははは! 二人とも面白すぎるっす!!

さすが兄妹って感じの息の合い方っすね!

俺は面白くないんですけど
ま、そういう訳で今は首都に向かって旅の道中や。

首都って東の山を越えたとこやんね?

あ、あー……それなんすけど。

ヨミドさんは今首都じゃなくて副都にいるらしいっすよ?

え? そうなん?
なんか、視察がどうこうで副都にいるって聞いたっす。

昨日酒場に来た冒険者さんが話してたっすよ

そうやったんか! 危うく無駄足を踏むとこやったで!

いや~ありがとうなお姉ちゃん!

いやいや、礼には及ばないっす。

一ヶ月くらいはいるらしいんで、今から行けば十分会えるはずっすよ

いやーえらいおおきに! 良かったなぁ兄ちゃん!
あ、あぁ。そうだな!



―数十分後―



さて、名残惜しいけどそろそろ行こか。

さっさと行かなヨミドさんがまたどっか行ってまうわ

もう行ってしまうんっすか? 1日くらい居ればいいのに
まあそういう訳にもいかんのや。

両親のためにも早く帰らなアカンしな

そうなんっすね……。じゃあこれでお別れっす。

またこの街に来ることがあったら顔を見せてほしいっすよ!

もちろんや! なっ兄ちゃん!
そうだな。ハイロさん、何から何までお世話になりました。

副都への地図までもらっちゃって

とんでもないっす!

ほんの1時間くらいだったっすけど楽しかったっす!

お二人の旅が無事に進むようお祈りするっすよー!

元気でなー!
お達者でー!






いやー、ハイロさんいい人だったな
んー? ふふん。せやな?
……その口ぶりといい、わざわざハイロさんを助けた事といい。

なんかあるんだろ? そろそろ話せよ

せやな。何も話さんで悪かったわ。

さっきのお姉ちゃん、ええ人やったやろ?

そうだな。助けたはずのこっちが助けられたくらいだよ
あれな、ギルド最強の暗殺者やから
…………は?
さっきまで和気あいあいと話していたお姉さんが暗殺者だと言い出す山田。

果たしていったい何が起こっているのか。あの笑顔は嘘だったのか?

次回、山田がベラベラ喋る。

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登場人物紹介

山田太郎

元道具屋の店主。高レベルな魔法の腕を持っているが、

なぜか関西弁の守銭奴とやけに現代的な性格。

「ドカベンって呼んでもええで」と言ったり、

偽名で岩鬼正美を名乗るなど、某野球漫画に謎のこだわりあり。

カイカ

冒険者の戦士。腕前に自信があったので難関ダンジョンに挑戦してみたものの、準備不足で傷薬がなくなりピンチに陥るちょっとしたマヌケ。腕は確からしいが、コミュ力がないと山田にディスられている。

ハイロ・アナグレタ

第3話より登場。酒場の看板娘らしい。

たちの悪い冒険者に絡まれていたところを山田たちに助けてもらう。

美人さんだが、なぜか「~っす」という語調で話す。

師匠(アネア・エアクオウ)

第9話より登場。凄腕の魔法使いで、山田の師匠。

100年以上生きているらしいが若々しく、「魔女」らしい風貌。

しかし魔法以外の事は99%忘れてしまうらしく、100年前どころか

昨日のことすら記憶が怪しい。山田いわく「後期高齢者」

ヨミド

第19話より登場。ギルドのリーダーで、魔法使い。

厳格な性格で、プライドが高いような発言が見受けられる。

第一章の山田とカイカはヨミドと会うために旅をしているが、

その役割を考えると、たぶん彼がメインヒロインなんだと思います。

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