第22話   第三章 『シャルウィダンス』⑧  数式

文字数 1,067文字

「ピアン!」

 まるで突然何かが爆発し、それから逃れるように晃子は一気に滑り出した。
 更に加速し、あらゆるスピードの限界を越えてそのまま別世界にワープしてしまおうとでも願っているかのように・・。

 それと共に大きなS字を描きながらスノーボードが流れて行く・・優雅な動きで、ゆったりと・・。
 が、不思議なことに、晃子がどんなにスピードを上げても、そのゆったりとしたS字の中から逃れることは出来ない・・。
 
 雪明りの中を一気にかなり滑り降りたが、まだ中腹にさえ来ていない。

 
 その時突然、空に輝くような光が現れた。それが美しい幾条もの光となって爆発した。
 花火だ。麓で大晦日のイヴェントが始まったのだ。
 
 
 晃子は思わずスキーを止め、その重い冬の夜空を彩る光の炸裂を見つめていた。
 雲に覆われた空に輝く花火はひどく神秘的に見えた。
 
 そんな晃子の前をスノーボードがスッと遮り、そのまま踊るように跳ね上がって大きなUの字を描いて止まった。

 そんな即興の舞いを拒むかのように、反射的にストックを突いて更に下ろうとした晃子だったが、
描かれたU字溝に阻まれ出られない。
 ならばと急いでその開口口から抜け出ようとしたが、その前にボードの軌道はOの字を描き、
その魔法陣のような結界の中に閉じ込められた。
 
 ・・マグカップに入った紅茶・・グラスに注がれたワインのように・・味わうこともせず、ただその掌の中に収めて・・。

 
 花火がの洪水のように上空を染める中、長い長い間生きて来た翼の主は、その腕の中にスッポリと晃子を収めた。
 
「・・ネーム・・」
「・・・」
「・・ネ~・・ム・・」

 ・・呪文のような・・子守歌・・コテッジの部屋でいつも、いつの間にか眠っていたのは・・。
 
(・・ネ~・・ム・・い・・)

 ルシアン・・あなたの腕の中で・・このままあなたの声の波動と同化して・・彼方の星雲へといくのかしら・・。
 眠りに落ちそうになりながら・・上空を見上げる・・。

 ・・ちょうどその上の雲だけまあるく晴れ、彼方に驚くほど鮮明な星々が見える・・。
 ・・一つ一つに手が届きそうな・・夢・・夢をみている・・?
 この0の結界と宙の扉を繋ぐ見えない筒状の・・筒・・?ううん・・大きな・・すり鉢状・・?スペースの・・S・・ユニヴァースのU・・なら、このOは・・。
  
 ・・まどろみの中・・数式・・?・・記号・・化学式・・?・・宇宙の全ては数学で解ける・・?混濁した頭の中が・・分からない記号で満ちる・・。

「・・ネ~・・ム・・」
 
 ・・なんだか・・その声の方がねむそう・・。
 
 

 


 



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