第1話

文字数 1,846文字


皆さんは絵画を見て、恋に落ちたような気持ちになったことはあるだろうか。
美術にさっぱり興味が無く、アートとは何ぞや?と本気で思っていたわたしだったが、その考え方が一気に変わった出来事についてお話する。


わたしは読書が好きだ。
本を読むという受動的な行為はもちろんのこと、その本をきっかけに新しいものに興味を持ち、世界が広がるのが楽しい。

わたしの中で、最たる例が「ア―ト」だった。

今までは美術が大嫌いだったが、小説という切り口から入り、アートっておもしろいかも……と思わせてくれた。
そのきっかけをくれたのが、原田マハ 著『楽園のカンヴァス』だった。


MoMA(ニューヨーク近代美術館)のキュレーター・ティムは、ある邸宅に招かれ、そこでルソーの名作・「夢」 に酷似した「夢を見た」という絵画を見せられる。ティムと日本人研究者・早川織絵で、その絵画の真贋を見定めるという物語である。
真贋判定するにあたって、手掛かりとなる謎の古書を読みながらストーリーが進んでいく。

ページを進めていく中で、ルソーの物語と2人のいる時間が交錯し、自分はどこにいるのか?この小説は本当にフィクションなのか?と思うほど、のめり込んでしまう。
そして何より、疾走感があって読者にどんどん読ませる力がある。


『楽園のカンヴァス』を通じて、画家の生涯や、画家自身の人間性を、そしてアート作品の背景を小説という形でも触れることで、少しずつアートそのものに興味を持ち始めた。

そして、こんなに美術を避けてきたわたしを、アートは広い心で包み込んでくれた。
感激した。

そこから、マハさんのアート小説を読み漁った。


そこで出会ってしまった、わたしの運命の画家。
フィンセント・ファン・ゴッホ。

びっくりした……
心を奪われた。恋かと思った。


37年の人生のうち、画家として絵筆を握ったのは、10年にも満たない。
その間に、今や世界中の人々を魅了する作品を残した孤高の天才。フィンセント・ファン・ゴッホ。

しかし彼の絵は、生前1枚しか売れなかったという。
いまやゴッホの絵画は、億単位で取引されているというのに。


わたしとゴッホの出会いは、おなじく原田マハ 著『たゆたえども沈まず』だ。
丁寧に丁寧に紡がれる物語は、読み返すたびに感極まる。

この小説では、ゴッホ(フィンセント)と弟・テオドルス、そして日本人画商・林と加納の交流が描かれている。
フィクションの世界の中で、日本人画商2人との出会いが、大きな影響を与える。
しかし、実際にはどの文献にもゴッホと林が出会った形跡はない。

それでも、同じ時期に同じパリという地にいた彼ら。
マハさんはそうやって、史実と創作を掛け合わせることが本当に上手なのだ。


あの頃のゴッホは周りから認められず、疎まれていた。
不器用で独りよがり。何をやってもうまくいかず、弟のテオにすがってばかり。

そんなゴッホが、わたしは愛しくて堪らない。
わたしは前世、ゴッホの友達か何かだったんじゃないか?と妄想するほど、彼に引きつけられる。

『たゆたえども沈まず』はフィクションではあるけれど、ゴッホにも林や加納のような、後押ししてくれるような友人がいてほしい(いてほしかった)と、願わずにはいられない。


『たゆたえども沈まず』を読んで、2度、ゴッホ展へ足を運んだ。
休日ということもあって大行列で、あらゆる意味で日本でのゴッホ人気を感じる。

ゴッホの作品は、筆遣いや色使いを凝視しているだけで、彼が絵画に込めた力のようなものを感じる。
生で観ると、涙が出そうなくらい感激してしまう。

アートにももちろん、制作過程がある。
その画家の生まれ育ったバックグラウンドもある。

小説や、また展示の音声ガイドなどから背景を知り、それらに思いを馳せる。
それだけできっと、ただ観るだけでなくさらに深いところでアートを感じ取れる気がするのだ。


何より、ゴッホが憧れ続けた日本の地で、世界中のゴッホの作品を見られること。
本物を観られる機会のため、尽力してくださる方々に、心から感謝である。

そしていつか、『たゆたえども沈まず』の表紙になっている「星月夜」を、MoMAにて直接観に行くと心に決めている。


マハさんは「アートは友達、美術館は友達の家」と表現する。
そんな感じで、美術館も気軽に行っていいと思うのだ。

友達の家なのだ、気負うことはない。


ゴッホの死後から130年ほど経ったいま、世界中で彼の絵画が愛されているということが、ファンの1人としてとても嬉しい。

これからもゴッホの作品が、末永く愛されますように。

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