第111話  私は女。男じゃないわよ 3

エピソード文字数 3,059文字

待て魔優。俺は今。男なんだよっ!
だから? それがどうしたの?
 く、くそぉ! ってかこのままじゃヤバイ。ヤバすぎる。 
待て。魔優。わかった。わかったから。胸と下を隠せ。そりゃマナーだろ?
言われなくてもちゃんと隠してるわよ

 俺は湯船に視線を落とし、ゆっくりと振り向いた。

 すると下半身に巻いてるタオルが確認できると、そのままゆっくり顔を上げた。


 ここぞとばかりのニヤけ顔は、こいつだけのオリジナルの表情。

 どことなしかドヤ顔になっていた。美優ちゃんはそんな顔はしないからな。

どう? 蓮君? 女でしょ?

べっ別に……そんなの分かってるっつーの。

そっか、お前がクル竹だったんだな。

なにそれ?
知らなくていい

 ちゃんと胸と下半身をバスタオルで隠す魔優。

 大事な部分は隠れてても、非常に破壊力があった。

 ベースが美優ちゃんだからな。こんなシーンを西部が見たらぶっ倒れるってマジで。

な~んだ。ガッカリだわっ。全然驚かないじゃない
当たり前だろ。この程度で焦る……
やめろぉ!

 俺が喋っている間にバスタオルを手に持った魔優。

 いち早く危険を察知し即座に振り向くと、ここぞとばかりに笑い出したのだ。

おい! 魔優! たった今俺は……お前を男だと認識したぞ!

 そんな事をする奴は女じゃない! 恥じらいを知れっ

 とは言うものの、振り返ることが出来ない。チキンであった。

蓮君。あのさ……取ってないよ。

取るわけ無いじゃない

え?
 恐る恐る前を向くと、バスタオルを持ったままの魔優は、俺の焦る顔を見るなりくすっと笑っていた。
この野郎。カマかけやがったのか

そんなつもりはなかったんだけどね。

この格好は私だって恥ずかしいわよ

 それなら入れ替わるなっつーの!
もうやめよう。こんな不毛な戦いなんて、やるだけ無駄だ
そうだね。だけど私が女って分かってくれた?
はっ、それは無理な話だ。お前は男だよ
違うわよっ。女だって
いやいや。どう考えても男だよ。もう俺はそんな目でしかお前を見れないから
ちょっと! 私は男じゃない! 女なのっ!
ってかお前ギャグで言ってんのか? そんなの面白くねぇし、寒いぞ

 今更、女だなんて……冗談が過ぎるぜ。

 すると魔優は拳をプルプルさせながら、俺をすごい形相で睨みつけると「わかった」と口から搾り出した。

じゃあ僕が男なら、蓮君に女の裸を見られても平気な訳だよね?
へ? あっ……
心が男なら、そんな事気にする必要は無いって事だ

 やべぇこいつ。急に開き直りやがった!

 またバスタオルに手を掛けた魔優。マジで脱ぐ気だと思ったのであっさりと降伏した。

待て魔優。わかった。分かったから……お前は女だ。

すっげー女だわ。すっげーかわいい。白目になるくらい……

……ふふ。やっと分かってくれた?
そんな可愛く言うなよ。男のくせに
なんだって? いい加減にしろっ!
嘘です。魔優はかわいい女の子です。すんげーめんこいっぺ
ほんと? やっと分かってくれた?

 なに? その可愛い声は。おかしいだろ。

 

 っていうか……

 さっきから、僕やら私やら、名称やらセリフが混同しててやりにくいんですけど!

分かってくれたら。それでいいんだ

 なぁ魔優? そこは「それでいいんだ」 じゃなくって。

 「それでいいのよ」 だろ? 何だよその女になりきれてない語尾は。

 ってか何でそんな女に拘るのは知らないが。正直無理がありすぎる。


 あと、美優ちゃんの顔で怒るの止めてくれる? 声も美優ちゃんなので違和感半端ねーから。

 「いい加減にしろ!」とかさ、彼女の高音で言われると、最早ギャグだっつーの。


 ※



 魔優との言い合いが終わると、もう一度湯船に浸かる。 ついでに気絶したままの平八さんも湯船につけて、身体を温もらせた後、脱衣場まで連れて行く。



 そろそろ平八さんの意識が戻って欲しいのだが、全然反応がねぇ……どれだけおっぱいに弱いんだよ。

ねぇ。蓮くんは……どっちがいい?
何が?
私は男として接した方がいいのか? それとも女。どっちが接しやすい?
 なんというか。君はそれに拘るね。
そりゃ断然男だろ。もうお前は……マジで男として認識しちまってるから
 すると魔樹はやれやれといった表情を浮かべながら

 分かったと頷いた。

じゃあ君にだけ……男として接するよ。あ、勿論学校でも男だけどね

そりゃ助かる。だけど人前では脱ぐなよ。その身体はお前だけの物じゃない。

美優ちゃんの身体でもあるんだからな

わかってるさ

 あのな。魔優? 今更キャラ変更なんて出来ねーよ。

 

 美優ちゃんをナンパから守ったお前も見てきたし、とばっちりで敵視してきたり……

 事情を知らなかったとはいえ、美優ちゃんの為になりふり構わず、俺を殴ってきたり……


 聖奈が美優ちゃんに詰め寄った時も、全部お前がヘイトを吸い込んで彼女を守っていた。

 


 そんな奴が……今更女だったなんて……

 全然説得力が無いんだよ。

ねぇ蓮くん……実を言うとさ、まだ……君を理解出来ないでいる

 魔優は俺の横に来ると、上を見上げた。

 何となく真面目な話がしたので、俺も落ち着いた口調になる。

それは俺だって同じだよ。

二人が入れ替わり体質だなんて、今日の昼まで知らなかったんだ。

私だって、ほんの数時間前知ったばかりだから。

だから……君と楓蓮さんが同じ人間だと、それがどうしても頭の中で繋がってくれない

まぁ……俺なりに必死に別人演じてたからな

蓮くんの姿なら、こうやって言い合ったりしても何とか話せる。だけど……


楓蓮さんになってしまうと私……

 確かに。楓蓮の時は全然喋らなかったからな。

頭では同じ人間だって。そう思ってるのに……だけど……


魔優……

理解するのに、ちょっと時間がかかるかもしれない

ごめんなさい

 理解する。か……

 

 そう言われると、俺も魔優が女だというのを、理解しなければならないのだろうか。

 本人があれだけ否定するんだから、それは魔優にとって凄く大切なことなのだろう。

うん。まだ知り合ったばかりの初めてづくしなんだ。

ゆっくり時間を掛けよう。

そうね
なぁ魔優。色々やっちまったけど……仲良くしよう
うん。わかった。こちらこそ。よろしくね。

 魔優が俺の事を理解するのなら、俺も同じく彼女を理解しなければ。


あと……
ん?

事情を知らなかったとはいえ……

手を出して……ごめんなさい

…………
か、楓蓮さんの顔を見るたびに私は……

魔優。もういいっつってんだ。

その話はさっき終わったはずだろ?

でも私……

それにさ、あれは……お前は全然悪くない。


あの時、美優ちゃんを締めて、逃げ出して……

怒り狂ったお前の顔を見て……殴られてもしょうがないと思った。


煽ったのは俺だ。お前に殴られようとした。

だから魔優。お前は悪くない! あまり……自分を責めないでくれ。

蓮くん……

そんな事考えるよりもさ……楽しい事考えよう。

なぁ魔優。俺達はきっと上手くいく。そう思わないか?

俺は今でさえ……確信しているぞ。


この出会いは、俺や魔優や美優ちゃんにも……

凛や聖奈。みんなにとって……大事な一日になると思うんだ。

 今までは親の都合やら教育方針で逢えなかったのかもしれないけど、出会っちまったらしょうがねぇ。

 ここから一気に仲良くなればいいだけの話だ。



 俺は思う。美優ちゃんも魔優もきっと仲良く出来るだろう。


 っつーか。正体を知る前から仲がいいんだぜ?


 しかも入れ替わり体質まで一緒だとか。それはアレか? 

 ここからずっと……じーちゃんばーちゃんまで一緒に仲良くしろって事なのだと。

 俺はそう解釈した。


――――――――――――――


次回 記念すべき一日  1

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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