第22話 本当は恋人同士?

文字数 3,373文字

 ショッピングセンターで、バーベキュー用の肉や野菜、紙コップ、飲み物などを買いそろえる。
 その間も、人見知りする美玖は俺や美瑠と行動を共にする。

 そして俺や美瑠に対しては、気心が知れていることもあり、笑顔で明るくしゃべる。
 浜本先輩や河口もその様子を見ていて、美玖のことは、おとなしそうではあるが、普通に話す女子高生だと安心しているようだった。

 そこからキャンプ場までは、それまでと同様、俺が美瑠と美玖を車に乗せ、浜本先輩が河口と真理姉さんを乗せて運転する。

 たぶんだけど、浜本先輩は真理姉さんを狙っている。
 河口は、特に誰も狙ってはいない……基本的にモテるので、純粋にキャンプを楽しみたいだけだろう。

 そして真理姉さんも、恋愛感情があるのかどうかは分からないが、水着着用前提のこのイベントに参加するということは、少なくとも浜本先輩や河口に良い印象を持っていると思う。

 美瑠は、俺の参加を条件にしたということだけど……なぜ美玖を連れてきたのだろうか。
 そして人見知りするはずの美玖は、どうしてこのイベントに参加してくれたのだろうか……。

「どうしたの、ツッチー。なんか悩んでるの?」

「いや……美玖がよくこのキャンプに参加してくれる気になったな、と思って」

 美瑠の質問に対して、素直に考えていることを口にした。

「私は……姉さんが、土屋さんのために絶対に必要なことだからって言ったので、お役に立ちたいと思ったからですよ。なんか、小説の舞台を再現できる場所だとか……」

「美瑠、そんなこと言ったのか?」

「うん、言ったよ。そのとおりなんでしょう?」

「ああ、まあ、参考になるかな、とは思ったけど。基本、俺は田舎育ちだから、ある程度想像はできるけどな」

「でも、実際に天女……女子が河原で水遊びしているところは、間近では見たことないよね?」

「そりゃそうだ」

「だったら、耳かきの時と一緒で、体験した方が良いんじゃない? イラスト用に写真も撮るつもりだし」

「えっ……そうなの?」

 美玖の、ちょっと焦ったような声が後ろから聞こえた。

「もちろん、そのためにカメラ、持ってきたから。スマホのじゃあまり写り、良くないから!」

 美瑠は既にハイテンションだ……かなりこのキャンプ、楽しみにしている様子。

「……でも、その……私、そんなにスタイル良くないから……」

「そんなことないよ。胸だって形が綺麗だし、ちゃんと大きさもあるじゃない。それに、ツッチーはちょっと細身で、美玖みたいな体型の女の子の方が好きだから」

「……どうして分かるの?」

「だって、イラストの指定がそうでしょう? ね、ツッチー?」

 なんか無茶ぶりがきた。

「いや、まあ、そういうラノベの主人公って、いかにもグラマーっていうのよりも、そういうちょっとスレンダーなヒロインが多いかなっていうのはあるかな……作品にもよるけど」

「ほら、ね? ……でも、グラマーってもう死語じゃない? 美玖、意味分かる?」

「まあ、私がそうじゃないっていうのは分かるよ」

 その言葉に、美瑠は大笑いし、俺も苦笑した。
 と、そこに電話が入ってきた。
 車載ハンズフリーにしているので、通話をオンにするとスピーカーから声が聞こえる。

「ツッチ-、そっちは盛り上がってる?」

 河口の声だ。

「はーい、今、向こうに着いてからのグラビア撮影会について盛り上がってたところだよ!」

 美瑠が助手席からそう応えた。

「「マジで!?」」

 浜本先輩と河口の声がハモって聞こえる……どうやら、向こうもハンズフリーにしているようだ。

「本当……あ、でも、美玖の水着姿は私しか撮影しちゃ駄目だから。大人の男性が女子高生の水着姿を撮影するの、犯罪ですからね!」

「「ええー……」」

 明らかに落胆する男性二人。
 そんな法律あったっけ、と思ったが、あえて口にしなかった。

「でも、じゃあ、みるるの水着姿撮影はOKだよな?」

 河口が食い下がる。

「うん、1枚1000円でいいよ。あと、転売とか、ネットに上げるの禁止」

「たけーよ!」

 河口の一言に、全員が爆笑した。
 それがきっかけで打ち解けたのか、美玖も会話に参加するようになった。
 当然、

「ミクちゃんとツッチーって、どういう関係?」

 という質問がでてくるわけだが、俺が無難に

「彼女はイラストが得意だから、俺の小説の挿絵を描いてもらっている」

 と応えると、まあ、あり得なくはないか、という反応。
 もちろん、ここで「家まで来てもらっている」などという失言はしない。

「じゃあ、ツッチーと付き合っているっていう訳じゃないよね?」

 という真理姉さんの質問に、美玖も

「はい、そういう訳ではないです」

 と答えると、

「さすがにそれはマジで犯罪だからなあ」

 と、男性陣には納得された。
 しかし、ここで美玖が、

「でも、私にとって土屋さんは、神様なんですよ!」

 と、何の躊躇もなく発言。
 向こうの車からの反応が数秒間、止まった。たぶん、はてなマークが浮かんでいることだろう。

「あー、それはね、美玖の妄想。よく『マンガの神様』とかっていう表現があるけど、ツッチーは一応ラノベ作家だし、アルバイトでイラストを描かせてもらっているから、『ラノベの神様』っていうか、そういう意味ですよ」

 美瑠が慌ててそうフォローしてくれた。

「あ、そうですね、そういう意味もあります」

 美玖も同調するが、「~もあります」は余計だ。

「まあ、美玖はちょっと天然だから」

「あ、それ、よく言われます」

 姉妹のそんな会話に、ようやく全員から笑い声が聞こえた。
 ほかにも、道中いろいろ美玖に関する質問が絶えなかった。
 他にどんなアルバイトをしていたのか、という問いに対しては、

「一時、ハンバーガーショップで働いていたんですけど、同級生の男子がいっぱい来ちゃって……」

 と答えた美玖。そんな過去があったんだな……。

「それはそうだろうな、俺でも通ってしまうよ」

「同級生以外にも、ファンがいたんじゃない?」

 男性陣からの、そんな声が絶えない……いや、俺もそう思ったけど。

「それで居づらくなって辞めちゃって、今は花屋さんでアルバイトしてます」

「へえ、それは俺も知らなかった。大変だな……意外と肉体労働だろう?」

 俺がそう気遣う。

「そうですね、基本的にずっと立ちっぱなしですし、バケツの水替えとかも多いですし……あ、でも、いろんなところ行けるから楽しいですよ」

「いろんなところって?」

 向こうの車の河口からそう質問が来る。

「結婚式場の花の飾り、とかじゃないか? 花屋にとっては貴重な客先だろうし」

 俺が代わりにそう応える。

「はい、その通りです……どうして土屋さん、そんなこと知っているんですか?」

「俺の実家、花屋だったからだよ」

「えっ……そうなんですか!?」

 美玖が大げさに驚く。他のメンバーからも、ちょっと意外そうな声が聞こえてきた。

「やっぱり、なんかそういう縁ってあるのかもしれないですね……嬉しいです!」

「まあ、偶然だけどな……花屋で、裏方の仕事だったら、まあ同級生と会うこともないかな」

「はい……あ、でも、一度、クラスメイトのお姉さんの結婚式場に行ったときがあって、そのときに花嫁さんに、トスブーケを渡すことができて……すごく憧れました!」

 ウエディングドレス姿の花嫁に、憧れながらトスブーケを渡す美玖……一瞬その光景が脳裏に浮かんで、わずかながら鼓動が高鳴る。

「ははっ、本来は受け取らないといけないものだけどな」

「そうですね、それで……」

 そんな感じで、しばらく、俺と美玖だけの話が続いた。

「……楽しそうね……ひょっとして、ミクちゃんとツッチーって、本当は恋人同士なんじゃないの?」

 どうやら、おとなしそうに思っていた美玖が俺とは親しげに、明るく話しているので、真理姉さんにそんな誤解を生じさせたようだった。

「いや、まさか……女子高生ですよ!」

 あわてて俺が否定する。

「そ、そうです……どちらかと言えば、姉さんの方が……」

「えっ、私? ……美玖、私がツッチーのこと、ほんとに取っちゃってもいいの?」

「え……その……」

 口ごもる美玖。

「ちょっとちょっとツッチー、どういうこと!?」

 浜本先輩からいつものツッコミが入り、また車内は爆笑に包まれた。
 そんな感じで、さらに打ち解けながら、キャンプ場を目指したのだった。
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