六 依頼受理確認

文字数 1,051文字

 十月十日、月曜、午前。
 佐枝は、三名を始末するまでの出来事を思いだしながら芳川とともにテレビを見た。
 ニュースは関越道下線パーキングエリアの事件を報じている。警察は、東京外環自動車道内回線幸魂大橋上の事件と同一犯の犯行とみているが手掛りが無く、捜査は難航していると報じた。
 正午。
 銀行から入金を知らせるメールが届いた。佐枝がメールを見ると入金額は依頼額の半額だった。メールを芳川に見せた。芳川は承知していた。
 夕刻。
 佐枝と芳川はいつものようにクラブ・グレースに出勤した。

 午後十二時前。
 勤務を終えてクラブ・グレースを出た。前橋市のアーケード街、弁天通りをマンションへ歩きながら、佐枝は芳川の手を握った。盗聴器と盗撮器は外したが、また留守中にしかけられた可能性がある。監視カメラのハッキングもある。こうして歩きながら話すのが最も安全だ。
「依頼主、下請けの始末屋、標的、依頼主に情報を流した右翼、こいつらをどう思う?」
 長野のクラブ・リンドウに出入りしている右翼は故人鷹野良平の知人だ。亜紀の調べで、この右翼が情報を漏したと判明している。第一線を退いて今なお与党長野県支部を牛耳ろうとしている。その点は標的の大物与党議員と同じだ。
 標的は与党の派閥から退いたと言いながら、派閥や政治や経済にチョッカイを出してマスコミをにぎわせている。失態が多いのに、それを諫める者はいない。失態を追求するマスコミに政治圧力をかけるぞと暗に威圧するだけだ。依頼主の大物与党議員が標的の口を封じたくなるのも良くわかる。

「下請けの始末屋を除けば、関係者は全員が隠居世代だろう。政界財界が無視すれば大物与党議員の排除は可能なのに、なぜ排除しないのかね?」
 芳川は政界の世代交代を考えている。政界や財界の遺物が時代の潮流に乗れぬまま、権力を傘にしてセクハラやパワハラを行使しているため、国内だけでなく国外からも批判の的になっている。依頼主も標的と似たようなものだろう・・・。
「あほな腰巾着がたくさんいて、依頼主や標的のような者たちを崇拝しているせいだ」
 こういう輩は自分をわかっていない。下請けを使えば政敵を始末できると思っている。天変地異が起きたら独りで何もできない事さえわかっていない・・・。
「いっそのこと、まとめて始末すればすっきりするな・・・」
 芳川が冗談のようにそう言った。
 佐枝が笑いながら言う。
「依頼主と下請けの始末屋を、新標的にを設定する・・・」
 そう言った佐枝は、自分の気持ちを素直に話したような気がした。
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