第1話 ゴツゴツの音が懐かしい

文字数 540文字

「今週も行こか?」
と研究室の仲間に声をかける。大学の裏門を抜け、ゆるやかな坂道をくだると、そのラーメン屋がある。
「ご注文は?」
「しょうゆトンコツの大盛り」
厨房に目をやると、店員さんが大きなショベルで寸胴鍋をかき混ぜている。混ぜるたびに、ゴツ、ゴツと大きな豚骨が鍋の壁面に当たり、凄まじい音を立てる。店内は故郷大阪では嗅ぐことができない香りで満ちている。
「お待たせしました。」
目の前に黒いドンブリがおかれる。ドンブリの中は、濃茶色で舌触りが心地よいトンコツスープで満たされている。レンゲで一すくいのスープを口へ運ぶ。
「うまっ!俺、ホンマに宮崎の大学に来て良かったわ!二浪した甲斐があるで」
と私が言うと、
「先輩、その言葉、もう聞き飽きましたよ」
と後輩が返す。
このやり取りが、毎週金曜夕方のお決まりである。ズズッと麺をすすりながら、バカ話、研究の話、卒業後の人生の話に盛り上がる。これは、二十年以上も前の話である。

 大学、大学院の六年間を宮崎で過ごした後、故郷大阪へ戻った。大阪の街にもトンコツラーメン屋は増えていた。何軒ものトンコツラーメン屋に足を運んだが、
「宮崎のしょうゆトンコツの方がうまいな」
食べた感想はいつも一緒だった。そのうち、大阪のトンコツラーメン屋へ足が向かなくなった。
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