前編

文字数 2,489文字

引っ越しに失敗しがちである。私はこれまで6回の引っ越しを経験してきたプロである。しかし、どれもこれも上手くいかない。引っ越しのために有給を消化しているのにも関わらず失敗をする。由々しき事態である。失敗込みで有給を使えるようにまでなった。例としては、引っ越し当日、予備日3日、とまあこんな感じである。
1回目の引っ越しは、家出引っ越しだった。家出とは、計画と準備をしっかり行うもので、成功以外は考えられないものである。家出失敗すなわちただの帰宅だ。ただいま〜おかえり〜、である。バイタリティ溢れる私はある日、親が出かけた隙にタクシーを捕まえ、90Lのゴミ袋2つの荷物を詰め込み、事前に借りていたマンションに引っ越し(家出)した。(のちに親に居所を突き止められ大騒ぎになった)当然荷物は足りず、タオルも無ければトイレットペーパーも無い。トイレの後はシャワーを浴び、自然乾燥させるというなんとも不自由な生活をスタートさせた。見事な引っ越し失敗である。
2回目の引っ越しは、二駅隣の街への引っ越しだった。当然、事前に間取りを見ていたので、不要な物は新居へ持って行かないように考えていた。事前に準備できるような思考になっている時点で勝ち組である。勝利はこの手の中にある。私の性格は昔からギリギリまでぐうたらするタイプであり、自分のその日、その時間、その瞬間の瞬発力に全てを任せていたので引っ越し前日まで何もしていなかった。引っ越し15時間前の夜中になり、そろそろやばいか?瞬発力みせちゃうぞお〜となった時に気が付いた事があった。当時私は初めての一人暮らしにウキウキし(家出のくせに)組み立て式2段ベットロフトを購入していた。組み立ては一人で6時間かかった。死ぬかと思った。しかしこのウキウキ2段ベットは次の家では高さが足りず入らないのであった。引っ越し15時間前にようやく気が付いたが、とりあえず見て見ぬフリをして段ボール詰め作業をした。引っ越し業者がやってきて素早い動きで荷物を運び出す様を私は2段ベットの上から見ていた。引っ越し業者に「これ(2段ベット)もですか?」と聞かれた時、「あ、これ捨てるんですぅ」と可愛く言った。引っ越しって簡単だなと思った。新居に着いて荷物の運搬が終わり、支払いを済ませる。あとは3時間後に旧家の鍵の受け渡しをしなければならなかった。......ん?2段ベットどうやって捨てるんだ?と二駅戻る電車の中で血の気が引いた。あんな馬鹿みたいに大きいもの、そのへんに放置していいのか?はは〜ん粗大ゴミってやつだな。はいはいオッケーGoogle。この街の粗大ゴミ回収につないでくれ。粗大ゴミ回収センターに電話したところ、驚愕した。回収は3週間後だと?!?!不運にもそのマンションは24時間ゴミ出しが出来る所はなく、他の住民も同じ路上のゴミ捨て場に置くスタイルだった。what's ハプン?street style?!アーハン?!?!?!だった。3週間も路上に2段ベットが置かれるのか?!回収される前に誰かが住み着くだろ!!と戦慄した。引っ越し業者に持っていってもらえば良かった。新居の玄関前に置いておけばよかった、と激しく後悔した。旧家の中に入り、2段ベットを見上げると、自分の想像力の足りなさにヒイタ。これどうやって外に出すの????
半泣きになりながらネジを回し解体作業をした。6時間かかって組み立てたものがそんな簡単に解体できるわけもなく、当時倒れて怪我でもしたら危ない☆とキツくネジを回した自分をぶん殴りたかった。というかこんなもの家出人のくせに浮かれて買うんじゃないよ。もちろん鍵の受け渡し時間中も半泣きで管理会社の人に謝罪しながら解体し、引っ越し失敗の旨を伝えた。管理会社の人は若い男の人だったが、手伝ってくれるなんて事はもちろんなく(当たり前)大量のネジと鉄の棒にまみれた不審な女に苦笑いしていた。その後、私は5時間かけて二駅を何往復もして解体した2段ベットを運んだ。見事な引っ越し失敗である。
3回目の引っ越しは、就職のため職場近くへの引っ越しであった。県外への引っ越しであったため、今度は簡単に自力で荷物運搬は出来ないぞ、と気合が入った。失敗は許されない.....負けられない戦いがここにある.....燃えていた。しかも引っ越しの3日後には初出勤が待っていた。役所にいく日数も含めるとギリギリの予定だ。引っ越し当日には段ボール詰め作業も終わり、引っ越し業者に渡すお茶を用意する完璧な準備である。自分の成長が恐ろしい。豆苗より成長早いと思った。失敗のしの字も見えない。victory。そう心に祝福の雨が降り注いだ。さらには、退去時の鍵返却も引っ越し時間に合わせ、ドヤ顔で旧家の立ち会いを終わらせ「お世話になりました☆」などとルンルンで新居へ向かった。新居につくと、引っ越し業者は到着しており準備をしてくれていた。「オートロック解除お願いします」と言われた。.......おや?新居の鍵はどこやろがい?はっとした。はっとしてぐうーである。鍵が無い。記憶にない。鍵という存在が憎たらしい。私はやらかしていた。不動産屋から新居の鍵を貰い忘れていたのだ。しかし慌てる事なかれ、不動産屋に連絡して貰えばいいだけの話。落ち着けマイハート。オッケーいまから電話する。.....出ない。え?なんで?え??引っ越し業者がボソッという「今日、水曜ですもんね」おい!!!!!!水を引くから休むという日本ならではの奥ゆかしき文化!!!!!!引っ越し業者に土下座のレベルで謝罪をし、荷物を預かってもらえることになった。そうでなければ、私はあの荷物達と一晩路上で過ごすところであった。布団もあるしまあいっか、というレベルではない。冷蔵庫洗濯機に囲まれた路上生活者なんて見たことない。あら、裕福ねってやり過ごせない。即職質、即お縄であった。あの時の引っ越し業者さま本当にありがとうございました。その晩、私は職場最寄駅の満喫でこれから働く職場を背に一夜を過ごした。見事な引っ越し失敗である。
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