飛燕の如く

文字数 1,768文字

 学校の教室――。
栞姉、ホントに一緒に登校するんだから……。
(……昨日の栞姉の話、地球防衛部に入ったら変な目で見られるって本当かなぁ)
…………。
(本当だろうなぁ……)
 クソでかいため息を吐く宗介である。
(いや、でも大丈夫! 学校では放課後以外に絡まなくて、誰にも見られないように部室に行けばいいだけだし! うん! いきなり周囲に即バレするなんてことは決してありえな――)
 ガラララ――ッ!!
新隊員くーーん!

いるーー!?

(うぉをぃ!!)
 宗介は光の速さでバッグで顔を隠した。
(な、なんで先輩が教室に……!?)
ん? 誰?

めっちゃカワイイじゃん。

バッカお前!

視線合わすな!

あの人が例の……!

(例のって! 例のとか言われてるよあの人!)
あれ? ここじゃないのかな?
(よしよし! そのまま諦めてください! 他人のフリで切り抜ければまだ――)
山田くーん!?

山田宗介くーん!?

いないのー!?

(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!
山田? 山田宗介って誰?
山田宗介って、確かこのクラスに……。
先ぱーーーーい!!!
あっ!

山田くん見ぃーっけ!

ちょっと一緒に来てください!!
 慌てて入り口まで駆け出す宗介。

 そのままひなたの手を握り、教室を飛び出した。

え!?

ちょ、ちょっと……。

 人気のない校舎の陰――。
どうしたんですか急に。
ちょっと用事があったから来ちゃった。
来ちゃったって……。
……それで、ええと……。
 ひなたは視線を下に向ける。

 宗介が釣られて見ると、彼の手は彼女の手をしっかりと握りしめていた。

あっ! すみません!
ううん、大丈夫だよ。
……それで? 用事ってのは?
うん!

今日も放課後に活動するから、ちゃんと来てよね!

…………。
…………。
……え? それだけ?
そうだよ。
(それだけのために、あんな辱めを……)
 宗介は膝から崩れ落ちた。
あれ? どうしたの?
ナ、ナンデモアリマセン……。
でもクラス聞いてなかったから大変だったよ。

見つけるまで時間かかっちゃったし。

あ、そっすか……。
……ん?

時間かかったって……まさか、他のクラスも同じように探したんですか?

そうだよー。
僕の名前を呼んで!?
うん!
(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!)
 宗介はうなだれた。
どうしたの?
……ナ、ナンデモ……。
そっか。
……何番目ですか?
うん?
1年のクラスで……僕のクラスには何番目に来たんですか!?
一番最後。
よりによって!
ついてなかったなぁ。
ええそうですね!

まったくもってついてねぇですよ!

まぁ見つかったから結果おーらいだね!

じゃあまた放課後!
 そしてひなたは嵐のように去っていった。
最悪だぁぁ!

考えうる限り最悪の事態だ!

まさかこんなに早く学年中に知れ渡るとは!

…………。
……落ち着け。落ち着くんだ山田宗介。

幸いなことにまだ初登校2日目だ。

僕の名前を聞いてピンの来る奴なんてほとんどいないはず。

まだ取り戻せるはずだ。

 そんな宗介の願望も虚しく、事態は、彼の想像以上に早く進んでいた。
……ねえねえ、聞いた?

地球防衛部のこと。

聞いた聞いた!

新入生で入部した子がいるらしいね!

これで正式な部活動になるんだって!

確か山田とかいう奴だよ。

部長の桐島とめちゃくちゃ仲良いらしいな。

羨ましいっちゃ羨ましいけど……俺には無理だな……。

まあ、大方その山田って奴も相当変わってるんだろうけどな。

……地球防衛部……山田……。
 噂は噂を呼び、話は飛燕の如く校内を巡る。

 それは新入生に留まることなく、2年生、3年生の間でもまことしやかに囁かれていた。

 そしてついには、とある人物の耳にまで。
ねえねえ、栞。

あの話聞いた?

あの話? 何かあったの?
例の地球防衛部、正式な部活動になるんだって!
え? じゃあ誰か入部したってこと?
うん、聞いた話によると新入生らしいよ。
新入生……誰なんだろ……。
ええと……名前聞いたんだけど……誰だったかなぁ……。
(その新入生、巻き込まれたのかなぁ……かわいそうに……)
(……昨日のうちに宗ちゃんに話してて、本当に良かったぁ)
……思い出した!

山田くん! 山田宗介くんって子!

桐島さんが大声で何度も名前呼んでたらしいから間違いないよ!

…………。
…………ふぇ?
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登場人物紹介

山田宗介。栄優学園1年。

本作の主人公。

なんやかんやで地球防衛部に入部する。

ツッコミ担当であるものの、時折暴走することも。

密かに、地球外敵性侵略者のスパイを探すことに。

桐島ひなた。栄優学園2年。

地球防衛部の創設者にして部長。

天真爛漫という名のお花畑。

正義のヒーローを夢見る。

姫野梓。栄優学園3年。

地球防衛部の副部長。

全てを包む慈愛の心を持つ女神。

桐島ひなたの数少ない理解者にして親友。

宗介を地球防衛部へ引き込んだ元凶。

鈴沢栞。栄優学園2年。

山田宗介の隣同士に住む幼馴染というより姉のような存在。

超過保護。

実はめちゃくちゃ金持ちであるが、宗介は知らなかったりする。

柊木ルシル。年齢不詳。

鈴沢家に仕えるメイドさん。

割と常識人で、辛辣なツッコミが冴える。

鈴沢栞とは主従関係にあるものの、むしろ友達に近くファーストネームで呼び合う。


須藤秋良。栄優学園1年。

何かしら部活に所属しなければいけないらしく、幽霊部員として入部。

あまり心を開かない感じ。

しかしながら、どうやら秘密があるようです。

エリカ・ミュラー。栄優学園2年。

外国からの留学生。

半片言を駆使するが、実は日本語ペラペラとの噂も。

美人ではあるが、時折裏の顔がチラホラと。

冴橋響。栄優学園1年。

地球外敵性侵略者の捜索を宗介に依頼した人物。

世界的組織の一員らしいが、詳細は不明。

ついでに実年齢も不明。

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