第24話 だって恥ずかしいんだもん!

文字数 934文字


フランツは、ダンスを習い始めた。

初めて、宮廷の舞踏会に参加した日……。


(髪をつやつやと撫で付け、白い小さな衣装に身を包んで、ホールに現れる)

[宮廷の貴婦人]


(ため息)

まるで、天使のようですわ!

[宮廷の貴婦人]


いいえ、天使そのものですわ!

(深いため息)

[宮廷の貴婦人]


しっ! 皆さん、お静かに。

彼の(・・)ダンスが始まりますことよ!

[付き添いで来たディートリヒシュタイン先生]


(ホールの見物席で)

相変わらず宮廷の貴婦人たちのハートをワシ掴みしているな。

みんな、彼の本性を知らないからな。

一度でも彼のいたずらの犠牲になってみたら、わかる……、彼は、天使ではない! 小悪魔だ!
(カドリーユが始まる)


ちょこまか

ちょこまか



※4組の男女のカップルが、四角くなって踊る。スクエアダンスの先駆け。軍事パレードに端を発する。

おお! 踊っておる!


いやいや、パートナー達がうまいんだ。なにしろ、ダンス講師達だからな!

(次々とパートナーが入れ替わる)


ちょこまか

ちょこまか

うむ! よしよし!

そうだ! そこでターン……よしっ!

(一曲終わる)


おじぎ

よしっ! よくやったぞ、フランツ君! いや、あれは、講師のエスコートが上手だからだ!
(2曲目)


ちょこちょこまかまか

ちょこまかちょこちょこ

[見物していた大公]


いいぞ、フランツ!


※皇帝の弟、アントン大公。

あ、……、


しーーーーん



…っ …!!
(しばらく動かない)
(立ち上がる)


何事もなかったかのように、楽団が音楽を再開した。


その後、踊り手が入れ替わり、また、観客達も踊りに加わり、ダンスパーティーが始まった。


……プリンスがいない。


ホールは暑く、人いきれが凄かった。


早くプリンスを見つけて、部屋へ連れ戻らねば。



……あっ、いた!


やっとのことで、ディートリヒシュタインは、プリンスを見つけた。

広間の隅で、彼は、壁に向かって立っていた。


探したぞ、フランツ君。こんなところで何をしているんだ?

(ぱっと振り返る)
彼は、真っ赤な顔をしていた。
だって、恥ずかしいんだもん!
りんごのように赤い頬をしたまま、小さな声で、彼は叫んだ。
だって、ほんとにほんとに、恥ずかしいんだもん!
うっ……、




かわいい……。

ディートリヒシュタインは、陥落した。
確かにこれは、天使だ……。
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登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

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