第5話
文字数 3,008文字
SHAM
おまけ②「ファン」
おまけ②【ファン】
「誰だ?」
「さあ?」
黄生と咲明が目を覚ますと、そこには1人の少女がいた。
お金が無くなってきて、仕方なく野宿をしていたのだが、昨日寝る時までは少女はいなかったはずだ。
ブロンドの髪は肩くらいまでの長さで、顔つきからしてまだ若いだろうか。
「俺もう一眠りして良いか?」
「この状況で寝るか。もしかして、俺達の首を狙ってきたのかも」
「狙ってきたのに寝てるのか?」
「んなこと言ったって」
どうするか、ここに置いて行くか、それとも起こしてから去るか、そんな話をしていると、少女が目を覚ました。
最初は寝惚けていたのか、眠たそうに瞬きをするとまた身体を横にしたのだが、すぐに目を大きく見開いた。
「し、失礼しました!!!こんにちは!!おはようございます!!!!」
「おはよう。で、君は誰かな?俺達に何か用でも?」
少女の目は綺麗な薄緑の目をしていた。
もじもじと何か言いたそうだが、なかなか言い出せないでいると、先に業を煮やしたのは黄生だった。
多分、面倒になっただけだろう。
「起きたならいいだろ。放っておこう」
「ま、待ってください!!!あの、私、お願いがあって・・・!!!」
「お願い?」
何の躊躇もなく去って行こうとした黄生を見て、少女はおろおろとし始めた。
そしてようやく決心したのか、着生と咲明にこんなことを言った。
「私のこと、連れていってくれませんか!!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
思わぬ少女の言葉に、2人は互いに顔を見合わせて、それから少女に背を向けて話し合いをした。
「なんだあれ?誘拐してくれって言ったのか、今?」
「ああ、俺にもそう聞こえたな」
少ししてから少女の方に顔を向けて、詳しいことを聞いてみる。
「私の両親は武器を売っているんですけど、最近売れ行きが良くなくて。お金に困ってるんです。だから、その、お二人はとても有名な賞金稼ぎだと知りまして、是非とも力をお借りしたいんです!!それに、ファンなんです!お願いします!!」
お金に困っていて賞金稼ぎをしたいというのは分かったが、最後のファンだというのはひとまず聞き流しておこう。
「ご両親にはなんて?」
「両親には内緒で出てきました!」
「・・・書金稼ぎがどういうことをするか知ってる?」
「もちろんです!手配書の人を捕まえるんです!!」
「・・・なんで俺達?」
「だって、強いんでしょ?賞金稼ぎだけで生活出来るなんて、相当な男たちだって、みんな言ってました!!!」
ふう、と咲明はため息を吐いて、少女には向かない仕事だと言い聞かせようとしたのだが、黄生がそれを止めた。
好きにさせてやればいいだろう、とだけ言うと、歩き出してしまった。
少女は喜んでいたが、咲明は心配で仕方なかった。
「誰をターゲットにしてるんですか!?私にも協力させてください!!!」
やる気だけなら充分あるのだが、何分、世間というか情勢というか、そういったことを知らない少女を連れて歩いているだけで、回りからは冷たい視線が注がれていた。
それに気付いていないのは、少女本人だけだろう。
「黄生、あの子どうするんだ?これからずっと着いてくるかもしれねぇぞ?」
「放っておけ。そのうち身に沁みて分かるだろうよ」
「あー!!見てください!!あそこにいる男、手配書の男ですよ!!捕まえなくていいんですか!?」
「わわっ!!」
いきなり叫んでそんなことを言うものだから、咲明は慌てて少女の口を手で押さえた。
なんとか男には聞こえていなかったようだが、2人とて気付いていなかったわけではないのだ。
様子を見ていたのに、少女が叫んでしまった。
「ごめんなさい・・・」
「気をつけるように」
「はい・・・」
シュン、と項垂れてしまった少女を一番後ろに歩かせていた。
ふと、気付けば少女がいなくなっていた。
「黄生、あの子いなくなったぞ」
「・・・・・・」
少女は、見知らぬ男に捕まっていた。
この辺り一帯は人身売買も行われている危険な地域だということを、少女は知らなかった。
男は少女を品定めすると、幾らで売れるだろうかと上から下まで舐めるように見た。
それだけでも気持ち悪かったのだが、少女の口には布が押し込まれているため、叫ぶことも出来ずにただただ恐怖に震えた。
「お譲ちゃん、1人でこんなところをうろつくなんて危ないじゃないか。おじちゃんが安全なところに送っていってあげるからね」
「この世界に安全なところなんてあったのか」
「ああ?」
何処から入って来たのか、そこには二つの男の影があった。
その男たちを見て、少女は緊張の糸が解れたのか、涙を流した。
「誰だてめぇら。どっから入ってきやがった?外にいた俺の仲間はどうした?」
「ちゃんと玄関から入ったぞ。ノックもしたしな。外にいた奴らなら、今寝てる」
「寝てるだと!?何しやがった!?」
一歩踏み出したところで、男が少女の首元にナイフを持っていく。
「近づくな!!!この女がどうなってもいいのか!!!さっきてめぇらと一緒にいるの見たんだ。大事な女なんだろう!?」
頬を人差し指でぽりぽりとかいたかと思うと、二つのうち一つの影の持ち主、黄生は表情ひとつ変えずに言った。
「知り合いでもなんでもない。勝手に着いてきただけだ。好きにすればいい」
「なんだと・・!?」
この黄生の言葉に驚いていたのは男だけでなく、少女までもが目を見開いており、絶望を露わにしていた。
そんな少女に対し、黄生は続ける。
「甘ったれた考えで世の中に出るな。自分の身ひとつ守れないなら、大人しく籠にでも入ってるんだな」
黄生が言った“籠”というのが、一体何を指しているのか、その時の少女には理解出来なかった。
そして男と黄生が話している隙に、咲明が男を気絶させて少女を救出した。
少女は2人の後ろをまた着いて歩いていた。
「・・・黄生、やっぱりあのやり方はちょっと強引だったんじゃねえのか?」
「・・・・・・」
ピタ、と足を止めると、そこには少女の家があった。
武器屋で武器を売っている自分の両親を見て、少女は唇を噛みしめた。
「人にはそれぞれ、自分に見合った生き方がある。武器を売るのか、その武器を使って誰かを傷つけるのか、それとも他人に頼って生きて行くのか、自分の道を生きて行くのか。決めるのは自分だ」
「・・・私、何も出来ないんですね。自分の無力さがよく分かりました。御迷惑おかけして、すみませんでした」
ペコ、と頭を下げると、少女は家に帰って行った。
「危ないから来るなって、素直にそう言やぁよかったじゃねえか」
「ならお前が言えば良かっただろ」
「あ?」
「なんだ?」
急に立ち止まり、何処かを見て驚いたような声を出した咲明の視線を追うが、そこには何もいなかった。
「誰かいたのか?」
「・・・いや、気のせいか?」
自分達に似た何かを見たような、いや似ている人間なんているだろう。
自分にそう言い聞かせて、2人は歩いて行く。
陽が昇り、また沈んで行く。
終わりへと近づいて行く時間を感じながらも、ただ歩き続けるしかない。
「腹減ったな。眠いし」
「あ、あそこなんて昼寝出来そうじゃねえか?」
咲明が指差したその草原で、太陽の光を浴びながら目をつむれば、またすぐに明日になるのだから。