第2話
文字数 1,325文字
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ハルの学校ではすぐに炎人間のことが話題になっていた。
幸いなことに火を消したハルのことは話題になっていないようだ。
会話に共通するのは危険だ、のひとつである。
確かに超能力の種類を考えると危ないかもしれないが。
同じ超能力を使うビーイングとしてハルは複雑な気持ちになる。
同級生の雷桐がハルを手招きで呼んでいるのが見えた。
休み時間だからついてこい、ということらしい。
雷桐は優等生だ。
勉強も運動もできてまさに文武両道である。
教師や生徒とも仲が良くて、トラブルの話はない。
腰まである長い金髪を頭の後ろで結んで背中に流している。
雷桐に付いていくと校舎裏の人気のないところにまで来る。
見た目は美人の部類である。
高校生としての年相応の幼さはあるけれども。女に興味があればだれでも振り返るに違いない。
性格は笑顔で穏やか。誰とでも仲良くなって、ちょっとしたアイドル扱いだ。
「いったい何やってんのよ!」
雷桐は開口一番、文句をつけてきた。
「何をやっていると言われてもな」
怒られるとは思わなかったので予想外の事態に頭が働かない。
ハルを問い詰める雷桐の背後にマシロがいるのが見えた。
どこかに隠れていたのだろう。
「エージェントは目立ってはいけないよ?」
「そういう規則は無かったと思う」
「それに正式なエージェントになったわけではなく、協力という約束だったはずだ」
「む~」
「朝の事件のことを誰から聞いたんだ?」
不機嫌で口をへの字に曲げている雷桐に聞いてみる。
マシロがそっぽを向くのが見えた。
「マシロから聞いたのよ」
気を取り直した雷桐が自信満々に言う。
今の世の中において超能力を持った存在をビーイングと呼ぶ。
そのビーイングの起こしたトラブルを解決するための政府機関がエージェントである。実際のところエージェントと呼ぶにふさわしいのは機関の構成員のほうだ。
ビーイングについて世間が無関心であるせいかエージェントについての知名度も低い。
ただハルの知る限り、エージェントというものはヒーローではない。
「やたらめったらにトラブルに首を突っ込まないでよ!」
雷桐の迫力でさすがにハルも気圧される。
現場のエージェントは本部からの指示で動くので勝手な行動はできない。
「火事をほうっておくわけにはいかなかっただろ?」
「まあ、それはそうだけど」
「ともかく、この事件を解決するために放課後に出動よ」
「それはエージェントとしての仕事か?」
「ええ、さっきエージェントの正式な仕事として本部から連絡が入ったわ」
雷桐は有無を言わさない口調だ。
「まったく一般人のいる場所で暴れるなんて」
雷桐が眉根を寄せて腹を立てている。
エージェントの手伝いをするようになったのはこの高校に入ってからだ。
必然的に雷桐と一緒のところを学校の連中に見られるようになった。
色々と噂が広まっているがそれは見た目から判断されていることなのだ。
「見た目で判断するのはどうかな?」
「きっと犯人はとんでもない悪人にちがいないわ」
ハルの声は雷桐の宣言に消されて届かなかった。