春の章ー1

文字数 1,067文字

朝の楠木邸の居間。

居間の真ん中にあるテーブルの上には、ご飯に焼き魚、お味噌汁、と和食が並んでいる。

居間にはもう揚羽の姿があり、テーブルの近くにある椅子に着席している。


そこに、寝間着姿の千紗が入ってくる。

おはよう

そろそろ目、醒めた?

ご飯できとるよ

おはようございます…。

まだちょい眠おすが、とりあえずは…。

お寝坊さんじゃのぉ。

昨日は何時に寝たの?

昨日は…

てっぺん回ったまでは記憶にあるんやけれど…


てっぺん?!?!?!??!?

早う寝にゃあお肌に悪いよ

わかってんのどすけどなぁ。

予習しとかなついていけるか不安で

そう。

でも無理したらつまらんよ

おおきに。

気ぃつける。

ご飯できとるよ。

覚める前に食べよう

おおきに。

うち、揚羽はんの料理、えらい好きどす。

そう言って、いただきます、と手を合わせる千紗
お口に合えばええのだけれども

やっぱ、揚羽はんの料理は美味しい。

うちもこないに料理上手やったらなー。

褒めても何もでないよ。

ちゃんとお口にあってよかった

もっ、もっ、もっ、とご飯を口に運ぶ千紗。

それを、妹を見るような笑顔で見つめる揚羽。

あ、お弁当

えっ、嘘?!

どっちについてる?!

わしから見て左。

じゃけぇ千紗ちゃんの右ほっぺじゃのぉ

教えてくれておおきに。

恥ずかしいなあ

そう言って、右ほっぺのご飯粒を取る千紗。


お弁当、とれた?

とれたとれた。

というか、わしがとっちゃれば良かったね。

いやいやいやいや、揚羽はんに取らせるわけには。

そないな教えてもろうただけでもありがたおすし。

「それに、そないな事されたら、うち、我慢できひんかもしれへんし…」と小さく漏らした千紗。


なにか言うた?
ああ、いやなんでもあらへんどす

そうなの?

何かあったら言うてくれてもええんじゃ?

せっかく二人で暮らしとるだし。なんて言うたっけ、こがいなの。

同棲?

ど、同棲?!

あれ?違うたっけ?

いけんね、年をとるとすぐ言葉が出てこん

いや、二人で共同生活するって言う意味なら同棲でもええんどすけれど。


「むしろ、そう思ててくれてんのか」と嬉しくなって、小さくガッツポーズを見せる千紗。



……?

どうしたの?

小そうガッツポーズなんかして?

ああ。

いや、なんでもあらへんどす。

そうなの?

なんか見えた気がするけぇ、なにかあったんじゃろうかーっ思うたんじゃけれど

見間違えどすえ。

ややなあ、揚羽はん。何と見間違えたんどすか

見間違えじゃったかー。

歳かなあ、恥ずかしいわ

うふふ、けったいな揚羽はん
そういいながら、「いまはまだ、この距離感でいたいさかいね」と呟いた。

まだ、この気持に決着はつけたくはない春の訪れを迎えた千紗なのであった。

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登場人物紹介

藤林紗千。京都出身の関東住み。

狐の女の子。歳は216歳。女子高生。京都弁でしゃべる。香月が幼い頃こっちに引っ越してきた。

自分の家からも通えるが、揚羽の家に転がり込んで私服で通える高校にかよっている。


揚羽のことが好き。

楠木揚羽。広島出身の関東住み。

狸の女性。歳は257歳。

和服で雑貨屋を営んでいる。広島弁でしゃべる。


紗千のことは妹ぐらいには思っている。

篠崎香月

千紗、揚羽と幼馴染で現在、千紗と同じ高校に通う17歳。

高校は私服でもいいが制服があるのでそれを着ている。



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