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エピソード文字数 624文字

「御殿様のご嫡男奇妙丸様の傅役は、平手紅殿でございますよ」

(紅が……奇妙丸の傅役とな)

「はい」

 紅は今も元気に暮らしている。
 合戦で命を落とすことなく、生き延びている。

 それだけで、胸に熱いものがこみ上げる。

「帰蝶様がこのような場所で身を隠しておられることが、御殿様に知れたら一大事でございます。光秀殿も無事ではすまされますまい。大事に至らぬ前に、どうか、清州城にお戻り下さい」

(……多恵。暫く考えさせてはくれぬか)

「躊躇している場合ではござりませぬ。こうしている間にも、織田家の家臣がここを突き止めるやも。帰蝶様、一刻を争うのです」

(……織田の家臣がここを。光秀殿を巻き込むわけにはいきませぬ。わかりました。殿の元に戻ります)

 「はい。この多恵が命にかえても帰蝶様をお守り致します」

 ――その夜、屋敷に光秀が訪れた。

 私は光秀に文をしたため、それを見せる。

【わらわは織田信長殿の元に戻ります】

「どうしても戻るのか」

【殿はきっとここを突き止めましょう。光秀殿に迷惑をかけとうない。わらわが奇妙丸を育てとうございます】

「奇妙丸様を……。それが帰蝶の本心なのか?そなたのことじゃ。行くなと申しても、行くのであろう」

 頷く私を、光秀は強く抱きしめた。

「たとえ織田信長殿の元に戻ろうとも、帰蝶はわしの心の妻にかわりはない」

 心の妻……。

 決して結ばれることのない、心の妻……。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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