第16話:父の心筋梗塞と母の痴呆

文字数 2,773文字

 苦学生の学生寮が一段落した頃、2016年4月12日、七郎の女房、恵子さんのお父さんが山崎仁さんが心筋梗塞で倒れたとの連絡が入り入院先のKU病院にお見舞いに行った。恵子が病室で待っていて父と母が散歩している時に急にお父さんが胸の痛みを訴えて倒れた。すると近くにいた学生さんが、すぐ救急車を呼んでくれ、病院に担ぎ込まれて、緊急手術で命を取り留めたと言った。おかあさんは、口もきけないほど憔悴しきっていた。

 病室でも窓の外の一点を見つめる様に、ただ黙っているだけだった。お父さんの方は、すっかり意識をもどしていた。むしろ疲れ切った恵子さんのお母さんを心配して七郎君、妻をタクシーで送っていってくれと言った。そこで少しして恵子とお母さんと3人で実家に帰った。家に戻るとお母さんが、お父さんはどうしたのと言うではないか。散歩中にいなくなったので探しにいこうと言いだした。

 入院見舞いに行って帰ってきたばかりよと恵子が言う言葉にも、お父さんがいないと言うばかり。この様子を見て七郎がKU病院に電話した。お父さんを手術した先生に状況を説明した所、お父さんを特別室に移して、そこにベッドをいれて奥さんもしばらくの間、その特別室へもうお1つベッド入れて入院させて方が良いと助言してくれた。その助言を聞いて、そうさせていただきますと言った。

 もう一度、3人で七郎の運転する車でKU病院に戻り、お父さんの特別室に、お母さんも入院させてもらう事にした。母が父の顔を見て安心して心筋梗塞の事を思い出した。明日、お母さんを循環器内科の痴呆外来で診察を受けてもらう事にした。そこで恵子と七郎はすぐ近くのホテルに泊まる事にした。そんなやりとりをしている最中に母が疲れたのか眠り始めた。

 そこで静かに明日、また来るねと父に言い残して病室をあとにして、ホテルにチェックインした。夕食後、早めに床につき、翌朝は早めに起きて朝食をとり8時前にホテルを出て病院に入り母の外来診察の手配をして9時過ぎに循環器内科の外来に母を連れて行った。10時頃、外来に3人で入り診察を受けた。先生の問いかけに、ちょっとぼーとした感じで受け答えをしていた。七郎が昨日の出来事を先生に話すと、多分、大きなショックを受けて、動揺した。

 それにより痴呆症状が顕在化してきたのでしょうと言た。痴呆の検査をしましょうといい、恵子と七郎は、外で待つことにした。20分位で診察を終え七郎が先生に呼ばれた。痴呆の程度は、かなり進んでいて3種類の薬を飲んでもらうことになりショックが収まって普通通りの生活ができるまで数日、お父さんの病室で一緒に入院してもらいましょうといわれ承諾した。1週間程で母が正気に戻り自宅に戻った。

 その後、父親の方が不整脈が見られ程度も悪くステント手術後、体調が回復したらペースメーカをいれる手術が必要だろうと言われた。特別室から普通の病室に移り入院後2週間してステント手術を受けることになった。手術は2時間程度で終了した。リハビリなどをして4日後、2017年5月20日に退院した。

  夏から普通の生活を始めて9月から両親が散歩を開始し、今までの生活を取り戻した。その後、七郎は週に2回、入間の学生寮に出かけた。学生達を集めて家庭教師の仕事を探すので、希望しない人は手を上げて下さいと言った。すると手を上げる人がいないので全員の家庭教師のバイトの手配を開始する事にした。2017年10月から学生寮や近くの施設や最寄りの3つの駅にも家庭教師募集のポスターを貼らせてもらった。

 その他、イオン、コストコでも宣伝させてもらった。土日、毎週1、2回、1回は2時間とした。高校生、1時間5千円と書いた。ポスターを貼った翌日から学生寮の2つの電話や学生寮のホームページに依頼の知られが次々と入ってきた。1週間で56件の応募があり、ほとんど全てが2教科を希望していた。先生と生徒の組み合わせは、できるだけ同性の先生に振り分ける事にした。これで2万円の報酬を得られれば学生の助けになると思われた。

 家庭教師、希望の高校生と教える先生、振り分けして11月から家庭教師を開始した。家庭教師、希望の高校生に学生塾まで来てもらう事にした。こうして2017年も終了した。2018年に入り七郎が学生に家庭教師と他のアルバイトの状況を聞くと家庭教師で月2万円、その他、平日、学校を終えてからのバイトで3から5万円で食事代込みで寮費が月3万円と実家から仕送りがなくても贅沢しなければ生活できるようになったと感謝された。

 2018年に入り1月12日の寒い日に恵子さんの父、吉永仁さんが再び体調を崩して救急車でKU病院に運ばれたとの連絡が入った。急いで恵子さんと共に病院に行くと担当の先生から、心不全の兆候が見られてクラス2から3に移行している。つまり日常動作をしても心不全の症状、息切れ、むくみ、呼吸不全を起こしやすくなっていると言うのだ。とりあえず、入院して、治療をして症状の改善をはかるつもりですと話してくれた。

 七郎が治癒する見込みはどの位あるんですかと単刀直入に聞いた。すると、かなり厳しいかも知れないと言い呼吸不全が直らないと死の危険が増すと言った。今回も母親の吉永仁美さんが取り乱して興奮状態になって死ぬんじゃないですよねと担当の先生に叫んだ。心配しないで、できるだけの事はしますからとの返答だった。先生と話して今回も特別室に移して患者さんの奥さんも一緒に入院してもらいましょうと言ってくれた。

 七郎が恵子さんに実家から近いからタクシーを使って行き来して看病しなさいと言った。その日から15日目に恵子さんの父の吉永仁さんの容態が回復せず静かに息を引き取った。彼の妻の吉永仁美さんが、この出来事に対して現実を受け入れられないように取り乱して錯乱状態になった。先生が鎮静剤の注射をして眠らせた位の興奮状態だった。彼女が目を覚ますと隣に旦那さんの姿はなく今度は泣き出した。

「泣き終わると窓の外の一点を見つめた」
「お父さんが、お星様になったのですか」と七郎や恵子さんに問いかけた。
「やさしく、そうです、お星様になったんです」と答えると、
「私も一緒にお星様になりたいと言い出した」

 言動の変化に驚いて先生を呼ぶと、あまりのショックで痴呆が急激に悪化したのかも知れないと言い、精神科の先生に見てもらいましょうと言った。少しして若い精神科の医者が来てゆっくりとした口調で吉永仁美さんに語りかけた。

 少しずつ落ち着いてきたが今度は口数が少なくなり、ぼんやりと外を眺めているだけの状態になった。精神科のお医者さんが、病室を替えて、数日、様子を見るために入院してもらいましょうと言い、それに対して、七郎と恵子が宜しくお願いしますと言った。
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