第1話 安らかに眠って下さいと言うけれど

文字数 652文字

生きたいと死にたいが交差する

生きたいと言ったあの人

死にたいと言ったあの人

いまでも顔が浮かぶよ

でも先に逝っちゃったね

僕は君たちに適切なアドバイスができただろうか

僕なりに一生懸命考えて

「死ぬ事ないよ、死んでどうするの、何も無くなっちゃうんだよ」

と言った記憶がある。それ以外何が言えよう

生きる喜びを言って聞かせれば良かったかな

でも僕にもそんなものなかったんだよ

僕だってギリギリで生きていたんだ

どんなにつらくても自分を救うのは自分しかいないんだよ

それがこの世に生まれてしまった人の宿命さ

僕が今更だけど君たちに言えるのは

人生の幸福な方だけ見て生きていけばいいんじゃないかということさ

僕たちは幸福も不幸も両方感じてしまう。

でも幸福だけ見ればいい時があるんだ

美しい音楽、芳しい紅茶、楽しい会話、数多ある美味しい料理

それに接しているだけで幸せじゃないか

どんなに不幸が襲っても必ず幾つかは楽しめるものさ

だからとどまって欲しかったんだ

君はこの世に一人だけ、この世のこの時間だけにしかいなかったんだよ

毎年、命日には、安らかに眠って下さいって言うけれど

そう言うしかないじゃないか、その日は一日中君たちのことを考えているよ

僕が死ぬまでそれは変わらない、でもね君たちの人生は途中で止まってしまったんだ

それ以降のことは誰もわからない、でもいいじゃないか、ずっと若いままで

僕にも随分と白髪が生えてきたよ、体も昔みたいに動かないよ

君たちは天国で自由に空を飛んでいるのかな

会ったらびっくりするよ、僕があまりに老けているので、でもこれが人生さ
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