第1話

文字数 1,992文字

 耳ざわりな高音に続いて、身体を震わせるような爆音。風に乗った破片が頭上を飛び去って行き、そのうちのいくつかが、かなりの勢いで身体に当たるのを肌で感じた。
 顔を上げると、先ほどまで目の前にあった三階建ての建物は、砲弾によって0.5階に減築されていた。
 機銃掃射音と怒声と悲鳴があちこちから聞こえる。俺は、体を起こして物陰へと走ろうと――したところで、首根っこを捕まえられて地面へ引き倒された。

「俺よりも前を走るな! 女はヒーローの後ろをくっついて走るんだよ!」

 いかにもハリウッド・アクション・ムービーのヒーロ―的なTHE・マッチョメンがそう言って、良く鍛えられた大殿筋をプリプリさせながら俺の前を走って行った。
 俺は地面に這いつくばったまま、奴の盛り上がったケツに向かって毒づいた。

「くっそ、痛ぇじゃねぇか。怪我したらどうする! 訴えてやるからな!」

 その言葉で、全てが一瞬全てが止まった。まるでストップモーションのように。そして、頭の中に声が響いてきた。

「痛みを感じるのは、錯覚みたいなものよ。機械から射出される拡張知覚現実(オーグメンテッド・パーセプション・リアリティ)によって、

。すべては仮想世界の出来事だから、あなたの現実の肉体には、怪我どころか傷一つ付いていない。むしろ体内に注入している人工栄養剤と筋肉への電位刺激でどんどん健康になっているくらい」
「怪我しなくても、健康でも痛ぇんだよっ!」
「だから気のせいだってば。だいたいあなた、施術前に契約書にサインしたでしょう?」
「俺がサインした書類にこんな痛みがあるなんてことは……」
「書類の三枚目よ」

 彼女の言葉とともに、俺が契約書を交わした時に録画したのであろう映像が、まるでドラマの回想シーンのように目の前に流れた。
 そうだ。いざ施術しようという直前に「契約書のサインをまだ貰っていなかった」と彼女が言い出し、「手術のドクターを待たせるといけないので急いでくれ」と言われ、ろくろく確認する間もなく、追われるように書類にサインをしたのだ。

「くそっ。お前らが急がせるからだろっ! こんなモン、無効だ! 訴えてやる!」
「読まずにサインした方が悪いのよ。あんただって、AVに出演させた女の子にサインするように圧をかけたでしょう?」
「ぐっ……だ、だいたいなんで『女』っていう設定なんだよ!? 話が違う! 俺が聞いた話じゃ、『新型の映像コンテンツ再生ハードに関しての治験』っていうことだったぞ」
「その通りのことをやってるわよ。こちらは契約書にある通り『任意の年齢・性別に設定された新型映像コンテンツ再生ハードがもたらす精神的影響の測定』をやってるだけ。じゃ、続きをどうぞ」

 彼女の言葉が終わらぬうちに、目の前の映像が動き出した。戦闘シーンの続きだ。悲鳴、怒声、罵声、血しぶき、土煙、破壊と殺りくのなかで、俺は倒れている兵士の傍らに銃が転がっているのを見つけた。それを拾って弾倉を確認しようとすると、タンクトップを着たおっさんにいきなり銃を奪い取られた。

「銃を使うのは男の役目だ」
「はぁ!?
「女は、助けられる役だけやっていればいいんだ」
「ふざけんな! 俺が先に見つけて拾った銃だ! 返しやがれ!」
「だいたいなんだその喋り方は。女のクセに。女なんて悲鳴を上げて逃げまわって、ヒーローが怪我したときに看病して包帯を替えて食事を作り、少し元気になったらセックスの相手をするものと相場が決まっているだろう」
「ふざけてんじゃねぇよ!」

 俺がブチ切れて相手の胸ぐらを摑んだところで、
「カット―っ!」
 大声とともに監督が登場した。

「あのね、君、その恰好なんなの?」
「はァ?」
「ヒロインはズボンなんか履いちゃダメでしょ、ミニスカートじゃないと。あと足元はもちろんハイヒールね。それで走って逃げる時には太腿丸出しにしないと。セクシーさが足りないとウケないでしょ? きょうび、ニュースキャスターだって、ハイヒールとミニスカートで数字取ってるんだから」
「……」
「あとね、ヘアメイク。悪女設定の場合は、口紅は深紅、ヒロインキャラはピンク。お約束なんだから。スッピンなんてありえないよ? ほら、メイクの人にやってもらって」
「……」
「あと、さっきから気になってたんだけど、話し方……」

 俺は、この監督にさらに職業指定に容姿の否定をされ、いい加減に頭にきたところでボコって叫んだ。

「クソクソクソクソっ! おい、クソビッチ! マッドサイエンティスト! ふざけるな! なんなんだ! こんな実験アリか?聞いてねぇ! 俺はこんな実験拒否するぞ!」

 すると、再び頭の中に声が響いた。

「気に入らない? じゃ、変えてあげる」

 声と共に、目の前が真っ白に変わった。そして目の前には――先ほどの砲弾で蹂躙された街よりもさらにひどく荒れた街並み、そして敵兵の代わりにゾンビの大群が現れた。

「……ゾンビ?」

(次話に続く)
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