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文字数 1,202文字

 それ以来、彼女は何かと私の些末な事柄にかかずりあっては世話を焼きたがる。鬱陶しいときもあるが、習慣とは恐ろしいもので、私にとって彼女の存在が次第に日常を席捲して、彼女が病欠しようものなら、何となくその日が憂鬱に過ぎてしまうようになった。
 彼女の友人作りの作法は一種独特なものがある。常軌を逸している、と言っても過言ではない。
 これぞと思った人物にターゲットを絞り、隙を突いて強引に懐柔を試みる。挙句、ヒルのように吸いつき、決して離さない。己の腹の内をも惜しげもなく曝け出し、結局相手もその純な誠実さにほだされ、逃れられぬ羽目に陥ってしまう。この私もまんまと彼女の術中に嵌まったというわけだ。
 深くつき合うほど、彼女の人となりの虜になるのは詮なきことだった。
 その外面とは裏腹に、すこぶる情に厚い。他者と己との分け隔てはなく、同化した振る舞いで痛みすら分かち合い、共に傷つき、泣き、癒そうとしてくれる。それに、つき合った者しか知りようがないが、ひょうきん極まりない。いつもユーモアたっぷりに笑わせてくれる。否、これは天性のもので故意ではない。己ではそんなつもりは毛頭ないのだが、人に向ける真剣さが滑稽に映ってしまうのだ。
 彼女の存在は一服の清涼剤、要するに一緒にいるとホッとする。全くもって不可思議な『いけ好かねえ』親友だ。
 彼女は陸上部に所属し、短距離とハイジャンプを得意種目としていた。しなやかな腕を優雅に振り、日本人離れした長い美脚で地面を蹴り上げ、よく熟れた果実を上下に揺らしながら疾走する姿は壮観そのもので、大空を駆け巡るペガサスでも目の当たりにしたかのように、息を呑むほどの迫力があった。ひとたび彼女がグラウンドに現れれば、全校生徒はもとより、校長教頭管理職以下全教職員の目はその勇姿に釘づけとなり、誰しもを虜にしてゆく。中学三年間、彼女は己の意志とは関係なく皆を魅了し続けたグラウンドの蝶であった。恐らく女教師などは羨望の眼差しで眺めたに相違あるまいて。
 ひと言だけ声高につけ加えておく。彼女の打ち立てた記録は平凡そのもの、大したことはない。
 ──たぶん、熟れ過ぎた果実のせいよね?
 原因を分析してみると、余りにも重すぎて重力に抗えなかったと結論づけた。私見だが。まあ、勉強もスポーツもそつなくこなすところが憎らしくもある。
 二年生になってクラスは別れたものの、お互い相手の部活終了時刻を待って、一緒に下校するとの暗黙の了解が成立していた。どちらかが病欠したときも、もう一方が必ず見舞って無事を確認なぞと儀式めいた行為も慣わしと化し、ゆえに

1年365日×(かけるの)3年
-(引くことの)[“1年生時”7月7日以前の日祭日+(足すことの)盆暮れ正月長期休暇に日祭日]

顔を突き合わさなかった日は一日たりともない。そして、三年生でめでたくもクラスメイトに返り咲く。
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