第5話 とりあえずちゃんと服を着てください
文字数 3,347文字
マンションに着くとみるくとあずきがそのまま僕の家に上がり込む。わかってはいたけど本気で今日は勘弁してもらいたかった。
「あのさ、みるく」
「何よ」
「今日は『温泉お嬢様の事件簿』の日なんだ」
「知ってる」
「杏ちゃんの出演するドラマなんだよ」
「それで?」
「ゆっくり見たいんだけど」
「見ればいいじゃない」
あずきが僕とみるくの会話に割りこむ。
「あたしたちがいたら邪魔?」
「邪魔」
はっきり言ってやった。
「僕は杏ちゃんとの時間を大切にしたい」
「あたしたちより芸能人のほうがいいの?」
「うん」
「テレビの向こうじゃ触れることもできないよ」
「そうね」
みるくがうなずく。
「遠くの芸能人より、近くの彼女よね」
言ってから顔を赤くする。恥ずかしがるなら口にしなければいいのに。
あと彼女じゃないから。
「お前らなぁ」
僕はため息をついた。
「自分があんな可愛い娘に勝てると思ってるのか」
「思ってるよ」
迷うことなくあずきが答えた。
あのー、あずきさん。
なぜにそんなに自信たっぷりなのですか?
送れてみるくが言う。
「わ、私だって負けてないんだからね」
耳まで赤くして強がる姿はなかなか可愛いけれど痛々しくもある。
みるく、無理すんな。
ともあれ、ひとまず説得はあきらめることにする。
勝手知ったる何とかで双子姉妹が上着をハンガーにかけてブラウスとプリーツスカートだけになる。
あずきが冷蔵庫からウーロン茶のペットボトル(二リットル)を取り出した。
みるくが三人分のコップを用意する。
もうお馴染みの光景ではあるがこうなると僕がお客なのではないかと錯覚してしまう。
あずきが注いでくれたウーロン茶を一気に飲んだ。空のコップをテーブルに置くとにこにこしながらおかわりを入れてくれる。
その間にみるくがキッチンの戸棚にある菓子袋を持ってくる。二枚で一袋のクッキーが三十袋あるお徳用サイズだ。
「あのさ」
みるくからクッキーの小袋を受け取りながら僕は言った。
「まさかこのまま泊まるとかじゃないよな? いったん家に帰るんだよな?」
「帰らないよ」
答えたのはあずきだ。
「着替えならここにもあるし、ラインでお母さんに伝えてあるし」
「一吾さんは?」
「お父さんの許可なんていらないもん」
あずき……それ一吾さんが聞いたら泣くぞ。
「き、着替えを見たいならご自由にどうぞ。でも、見せたいわけじゃないんだからね」
みるくが顔を赤らめながら言う。健全な男子としてはありがたい話ではあるのだけど、小学生のころから散々裸を目にしてきた僕としてはさしたる興奮もわかない。
生着替え?
いや、もうそれ今さらだから。
こいつらが相手ならまだ……江崎さんだっけか、彼女とか佐々木さんとかのほうがはるかにそそる。見たことないし、見る機会があるとも思えないものの、きっとみるくたち以上のエロさがあるはずだ。
「お姉ちゃんはともかく、あたしは脱いだらすごいよ」
「ふむ」
視線の先はもちろんあずきのFカップ。確かにこれは破壊力がありそうだが、それは僕でなくても同じこと。
おっきいおっぱいは正義だ(意味不明)。
みるくがそっとぼくにすり寄り、肩に頭を乗せる。
「みるく?」
「……」
クッキーの甘い匂い。
みるくの甘い匂い。
……もぐもぐと口を動かしクッキーを咀嚼していなければもっとポイント高かったのに。
残念な奴。
★★★
リビングで二人に着替えてもらってその間に僕も自室で着替える。
あずきが僕の部屋で生木替えを披露しようとしたけれど低調にお断りした。うっかりしたことになってしまったら僕は否応なしに森永姓を名乗るかあずきを羽田姓にするかのどちらかにしなければならなくなる。さもなければ千代子さんに八つ裂きにされるだろう。それだけは避けたい。
いや、八つ裂きよりも婚姻届だな。
そして僕が十八歳になったら即日役所に提出されるのだ。
……着替えながらそんなことを想像したら軽くめまいがした。
あずきは家事もできるし可愛いし尽くしてくれるタイプだしある意味嫁にするにはもってこいなのかもしれない。
しかし。
コンコンとドアがノックされ僕ははっとする。つまらない考え事なんてしている場合ではなかった。家の中にみるくとあずきがいるのだ。
油断大敵。
「空、入るよ」
「わぁ」
変じも待たずにあずきがドアを開ける。下着姿なのは予想外でも何でもなかった。薄紅色のトレーナーの上下を持っているけどどうしてリビングで着ないのか全く理解できない。
あずきの後ろにやはり下着姿のみるくが顔を真っ赤にして控えているけどこれもわけがわからない。
恥ずかしいなら服着ろよ。
「空」
はちきれんばかりのFカップが喋った……じゃなくて、あずきが言った。
「空にトレーナー着させてあげるっ!」
下着でなくトレーナーっていうのはまだまだお子様な僕のレベルに合わせてくれたのか?
嘗められてるなぁ。
まあ、間違いも起きそうにないし、いっか。
「わっわっわっ私も空に着替えさせてあげるんだからね」
みるくの強がりは何とも微笑ましいな。
それに引き替えあずきときたら……。
「ん? なぁに?」
「いや、もういいや」
こいつの残念ポイントだな。
男子がみんな狼だと思うなよ。
つーか、いっそ……いやダメだ。
早まるな自分。
全力で煩悩を振り払いあずきの両肩をつかんで回れ右させる。
「リビングに戻れ」
「えーっ」
あからさまに不平の声。
「あたし空のレベルに合わせたつもりなんだけど」
「そんな気遣いは無用だ」
「あれ? 下着の着替えのほうが良かった?」
「そうじゃない」
「もう、空ったらえっちぃ」
と、あずきがわざとらしく身をくねらせる。
こらこらこらこら。
お前のFカップがポロリとなったらどうするんだ。
……どうもしないか。
こいつ、前に泊まったときは強引に僕を風呂に連れ込んだからな。
みるくも一緒だったけど。
僕がその気になったら……こいつにとっては願ったりなだけか。
何か腹立つな。
「空」
まだドアのところにいるみるくが声を強ばらせる。
「嬉しくないの?」
「まあ、可愛い娘の下着姿は嫌いじゃないぞ。お前らでなければいやっほうってなるかもな」
「私じゃダメ?」
面倒くさいなぁ。
「単に見慣れただけだ。ダメってわけじゃない。でも、押しつけがましいのはかえって引くな」
「そっかぁ」
みるくが俯いた。
ちくしょう、可愛いぞ。
思わずその仕草にぐっときてしまう。みるくにプラス500ポイントだっ。
来週ならポイント三倍サービス期間だったのに惜しかったな、みるく。
などとアホなことを考えてみたり。
「えっと、なら今日空に告白してきた娘にこんなことされたらどうする?」
あずきの質問に僕はさして間をおかずに答える。
「そうだな、手を出すかどうかと問われたら答えにくいが、結構心惹かれたかもな」
「え?」
不満げだ。
辛うじて背を向けたままでいるけど、抵抗がすごい。つーか、本当にそのうちポロリといくぞ。
身体を揺らすんじゃない。
「お姉ちゃんも含めてあたし以外の女は許さないよ」
おいおいおいおい。
それはないだろ。
てか、独占欲強すぎだ。
「おい、もし僕が江崎さんの告白に応じたらどうするつもりだった?」
「空はそんなことしないもん」
「いや、だからもしもの話だ」
「あたしの空はそんなことしないもん」
「だから……人の話聞いてるか」
「空は絶対にそんなことしない」
「……」
いかん、こいつまともじゃない。
家事もできて可愛くて尽くしてくれて……男にとってこの上ないお嫁さんか恋人になってはくれるだろう。
だが、いかんせん愛が重い。
重すぎる。
下手をすればその愛の重さでぺしゃんこに押し潰されかねないほどだ。
僕を愛するならもうちょっと加減をしてほしい。
でなければとてもじゃないが嫁にはできない。それ以前に彼女にするのも躊躇してしまう。
つまり選択の余地があるうちは無理。
「空」
静かに、それでいて圧のある声であずきが告げた。
「あたし、空以外の男なんていらないからね」
「はぁ?」
「空だけだからね」
「いや、お前それは……」
「だから空にもちゃんとあたしだけを見てほしいの。あたしの全部、空のものだよ」
「……」
重い、というか痛い。
あずき、痛すぎるぞ。
「あのさ、みるく」
「何よ」
「今日は『温泉お嬢様の事件簿』の日なんだ」
「知ってる」
「杏ちゃんの出演するドラマなんだよ」
「それで?」
「ゆっくり見たいんだけど」
「見ればいいじゃない」
あずきが僕とみるくの会話に割りこむ。
「あたしたちがいたら邪魔?」
「邪魔」
はっきり言ってやった。
「僕は杏ちゃんとの時間を大切にしたい」
「あたしたちより芸能人のほうがいいの?」
「うん」
「テレビの向こうじゃ触れることもできないよ」
「そうね」
みるくがうなずく。
「遠くの芸能人より、近くの彼女よね」
言ってから顔を赤くする。恥ずかしがるなら口にしなければいいのに。
あと彼女じゃないから。
「お前らなぁ」
僕はため息をついた。
「自分があんな可愛い娘に勝てると思ってるのか」
「思ってるよ」
迷うことなくあずきが答えた。
あのー、あずきさん。
なぜにそんなに自信たっぷりなのですか?
送れてみるくが言う。
「わ、私だって負けてないんだからね」
耳まで赤くして強がる姿はなかなか可愛いけれど痛々しくもある。
みるく、無理すんな。
ともあれ、ひとまず説得はあきらめることにする。
勝手知ったる何とかで双子姉妹が上着をハンガーにかけてブラウスとプリーツスカートだけになる。
あずきが冷蔵庫からウーロン茶のペットボトル(二リットル)を取り出した。
みるくが三人分のコップを用意する。
もうお馴染みの光景ではあるがこうなると僕がお客なのではないかと錯覚してしまう。
あずきが注いでくれたウーロン茶を一気に飲んだ。空のコップをテーブルに置くとにこにこしながらおかわりを入れてくれる。
その間にみるくがキッチンの戸棚にある菓子袋を持ってくる。二枚で一袋のクッキーが三十袋あるお徳用サイズだ。
「あのさ」
みるくからクッキーの小袋を受け取りながら僕は言った。
「まさかこのまま泊まるとかじゃないよな? いったん家に帰るんだよな?」
「帰らないよ」
答えたのはあずきだ。
「着替えならここにもあるし、ラインでお母さんに伝えてあるし」
「一吾さんは?」
「お父さんの許可なんていらないもん」
あずき……それ一吾さんが聞いたら泣くぞ。
「き、着替えを見たいならご自由にどうぞ。でも、見せたいわけじゃないんだからね」
みるくが顔を赤らめながら言う。健全な男子としてはありがたい話ではあるのだけど、小学生のころから散々裸を目にしてきた僕としてはさしたる興奮もわかない。
生着替え?
いや、もうそれ今さらだから。
こいつらが相手ならまだ……江崎さんだっけか、彼女とか佐々木さんとかのほうがはるかにそそる。見たことないし、見る機会があるとも思えないものの、きっとみるくたち以上のエロさがあるはずだ。
「お姉ちゃんはともかく、あたしは脱いだらすごいよ」
「ふむ」
視線の先はもちろんあずきのFカップ。確かにこれは破壊力がありそうだが、それは僕でなくても同じこと。
おっきいおっぱいは正義だ(意味不明)。
みるくがそっとぼくにすり寄り、肩に頭を乗せる。
「みるく?」
「……」
クッキーの甘い匂い。
みるくの甘い匂い。
……もぐもぐと口を動かしクッキーを咀嚼していなければもっとポイント高かったのに。
残念な奴。
★★★
リビングで二人に着替えてもらってその間に僕も自室で着替える。
あずきが僕の部屋で生木替えを披露しようとしたけれど低調にお断りした。うっかりしたことになってしまったら僕は否応なしに森永姓を名乗るかあずきを羽田姓にするかのどちらかにしなければならなくなる。さもなければ千代子さんに八つ裂きにされるだろう。それだけは避けたい。
いや、八つ裂きよりも婚姻届だな。
そして僕が十八歳になったら即日役所に提出されるのだ。
……着替えながらそんなことを想像したら軽くめまいがした。
あずきは家事もできるし可愛いし尽くしてくれるタイプだしある意味嫁にするにはもってこいなのかもしれない。
しかし。
コンコンとドアがノックされ僕ははっとする。つまらない考え事なんてしている場合ではなかった。家の中にみるくとあずきがいるのだ。
油断大敵。
「空、入るよ」
「わぁ」
変じも待たずにあずきがドアを開ける。下着姿なのは予想外でも何でもなかった。薄紅色のトレーナーの上下を持っているけどどうしてリビングで着ないのか全く理解できない。
あずきの後ろにやはり下着姿のみるくが顔を真っ赤にして控えているけどこれもわけがわからない。
恥ずかしいなら服着ろよ。
「空」
はちきれんばかりのFカップが喋った……じゃなくて、あずきが言った。
「空にトレーナー着させてあげるっ!」
下着でなくトレーナーっていうのはまだまだお子様な僕のレベルに合わせてくれたのか?
嘗められてるなぁ。
まあ、間違いも起きそうにないし、いっか。
「わっわっわっ私も空に着替えさせてあげるんだからね」
みるくの強がりは何とも微笑ましいな。
それに引き替えあずきときたら……。
「ん? なぁに?」
「いや、もういいや」
こいつの残念ポイントだな。
男子がみんな狼だと思うなよ。
つーか、いっそ……いやダメだ。
早まるな自分。
全力で煩悩を振り払いあずきの両肩をつかんで回れ右させる。
「リビングに戻れ」
「えーっ」
あからさまに不平の声。
「あたし空のレベルに合わせたつもりなんだけど」
「そんな気遣いは無用だ」
「あれ? 下着の着替えのほうが良かった?」
「そうじゃない」
「もう、空ったらえっちぃ」
と、あずきがわざとらしく身をくねらせる。
こらこらこらこら。
お前のFカップがポロリとなったらどうするんだ。
……どうもしないか。
こいつ、前に泊まったときは強引に僕を風呂に連れ込んだからな。
みるくも一緒だったけど。
僕がその気になったら……こいつにとっては願ったりなだけか。
何か腹立つな。
「空」
まだドアのところにいるみるくが声を強ばらせる。
「嬉しくないの?」
「まあ、可愛い娘の下着姿は嫌いじゃないぞ。お前らでなければいやっほうってなるかもな」
「私じゃダメ?」
面倒くさいなぁ。
「単に見慣れただけだ。ダメってわけじゃない。でも、押しつけがましいのはかえって引くな」
「そっかぁ」
みるくが俯いた。
ちくしょう、可愛いぞ。
思わずその仕草にぐっときてしまう。みるくにプラス500ポイントだっ。
来週ならポイント三倍サービス期間だったのに惜しかったな、みるく。
などとアホなことを考えてみたり。
「えっと、なら今日空に告白してきた娘にこんなことされたらどうする?」
あずきの質問に僕はさして間をおかずに答える。
「そうだな、手を出すかどうかと問われたら答えにくいが、結構心惹かれたかもな」
「え?」
不満げだ。
辛うじて背を向けたままでいるけど、抵抗がすごい。つーか、本当にそのうちポロリといくぞ。
身体を揺らすんじゃない。
「お姉ちゃんも含めてあたし以外の女は許さないよ」
おいおいおいおい。
それはないだろ。
てか、独占欲強すぎだ。
「おい、もし僕が江崎さんの告白に応じたらどうするつもりだった?」
「空はそんなことしないもん」
「いや、だからもしもの話だ」
「あたしの空はそんなことしないもん」
「だから……人の話聞いてるか」
「空は絶対にそんなことしない」
「……」
いかん、こいつまともじゃない。
家事もできて可愛くて尽くしてくれて……男にとってこの上ないお嫁さんか恋人になってはくれるだろう。
だが、いかんせん愛が重い。
重すぎる。
下手をすればその愛の重さでぺしゃんこに押し潰されかねないほどだ。
僕を愛するならもうちょっと加減をしてほしい。
でなければとてもじゃないが嫁にはできない。それ以前に彼女にするのも躊躇してしまう。
つまり選択の余地があるうちは無理。
「空」
静かに、それでいて圧のある声であずきが告げた。
「あたし、空以外の男なんていらないからね」
「はぁ?」
「空だけだからね」
「いや、お前それは……」
「だから空にもちゃんとあたしだけを見てほしいの。あたしの全部、空のものだよ」
「……」
重い、というか痛い。
あずき、痛すぎるぞ。