炎を発動した少女

エピソード文字数 898文字

「こ、これが……さいごの……いっぽん……」
 少女はぶるぶる震えるからだでマッチを壁にこすりつけた。
「ああ、あったかい」少女はぼろぼろ涙をこぼした。「この炎が消えたら……死んだおばあちゃんに……やっと会える……」
 とつぜん意識が朦朧(もうろう)になり、しんしんと雪が降りしきる冷たい路上にうつ伏せのまま倒れた。頭のてっぺんから足の爪先まで雪まみれとなった。
「あたし、このまま死んじゃうんだ」少女はかじかんだ指先をじっとみつめた。「今日はひとつもマッチは売れなかったわ」

 死にたくないよ!
 まぶたがしだいにしだいに重くなってきた、つぎの瞬間だった。

 ボッ――!

 少女の人差し指から炎が飛びだした。
「えっ!」少女は目をぱちくりさせた。「これは、いったい何なの?」
 すっと起きあがり、自分の(てのひら)をまじまじと眺めた。
 もう一回やってみよう。
 少女はぎゅっと目をつぶった。「えいっ」

 ボオーッ――!

 さっきの十倍以上の炎が人差し指から飛びだした。
「あははは、これは愉快だわ。あははは」少女はげらげら笑った。「こんな大晦日の夜に、なにが悲しくてマッチ売りの売り子なんざやってらんねぇぜ、このくそったれが」
 そういえば、さっき大金持ちの大きな屋敷がありやがったな。
 少女はにやりと笑った。

 ボオーッ――――! 
 ボオーッ――――! 
 ボオーッ――――! 

「燃えろ、もっと燃えろ。ぎーひっひっひっ」

 それから数日後、少女は手帳に高級なボールペンでさらさらと書きはじめた。


 デビュー戦 場所:大きな屋敷  星の評価 ★☆☆
 二戦目   場所:大きなビル  星の評価 ★★☆
 三戦目   場所:大きな銀行  星の評価 ★★☆
 四戦目   場所:大きな空港  星の評価 (引き分け)
 

「ちくしょう、四戦目は危うくみつかりそうになったぜ」少女は長い舌でボールペンの芯をべろべろ舐めた。「五戦目はかならず星三つとってやる!」


 健気なマッチ売りの売り子は、街の人々を恐怖のどん底に突き落とす卑劣な放火魔となった。






 
 
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