第28話  偶然? 必然?

エピソード文字数 1,757文字


 ※


 喫茶店を出た後、トボトボと一人で帰宅する。今日はコンビニに寄らずまっすぐ家に向かう。


 仕事が終わってホっと一息つくはずが、今日は家に帰る足取りが重かった。

 まだ仕事してもいいと思うくらい、帰りたくない。


 親父の話をちゃんとしないまま出てきたからな。




 分かってる。分かってるんだ。


 あいつにも色々あるんだろうし、親父が俺に対し見せた顔だけで分かる。「すまない」と、そういう気持ちが嫌というほど伝わってきたから。

 

ちゃんと謝ろう……

 親父の事を信じてやらないと。

 俺がしっかりしなければ。親父の分まで華凛を見てやらないと。



 大きな交差点の信号が青になると。歩き出した。

 その時、向こう側から歩いてくる人間に気が付くと、思わず立ち止まりそうになったが、平然を装う。





 染谷くんだ。

 こんな時間に何をしているのか知らないが、喫茶店で見かけた服そのまま、今まさにすれ違った。



あっ! あの……

 その声に振り返る。無視するのも悪い。


 だが今の俺は……白峰楓蓮なんだ。

はい……?
あの。さっき喫茶店で……

 笑顔を見せてくれる染谷くんだったが……


 この状況がようやく飲み込めて来た時、笑顔で返す事が出来なかった。

……あっ、オムライスの人ですね?

 そんな時、信号が点滅する。


 交差点の中央でいるのはまずいと思った俺は「それじゃ。またね」と会話を切った。

また食べに行きます!
はいっ!  じゃあ……

 交差点を渡りきると、振り返る。

 すると染谷君はこちらを向いていた。一応お辞儀をすると向こうも返してくれる。

 もうこのくらいでいいだろ。俺は振り返り歩き出した。
参ったな……
 染谷くん……

できれば、君とは楓蓮で逢いたくなかった。


 

 たまたま喫茶店に来ただけ。なのだろうが……


 この調子じゃ……再び喫茶店に来るかもしれないな。

 喫茶店でも、さっきも見せた彼の赤ら顔。


 実はかなりショックであった。

 

考えすぎだ。


考えすぎだって……大丈夫だ。

 それに染谷くんは、一目惚れした女の子がいるって言ってたじゃないか。


 それなら今日が初対面である楓蓮ではない!

 

 


 染谷くんはそんなヤツじゃない。


 俺の考えうる最悪の事態にはならない。


 



 ※



ただいま
お姉ちゃんおかえり。お風呂してあるよ
おっ、さんきゅ。助かるぜ
自分の部屋に戻る前に、親父の部屋を覗いてみたが、電気は消え真っ暗だった。
あれ? 親父は?

男になってさっき出て行ったよ。


なんか、友達と会いに行くんだって。

 俺は自然と溜息が漏れる。せっかく素直に謝ろうとしたのに、また腹が立ってくる。
このまま帰ってこないつもりじゃないだろうな?

ううん。ちょっとしたら帰ってくるって言ってたよ。


うみゃ~棒いっぱい買って来てくれるんだって。

 そっか。それならいいんだけど。

 

 自分の部屋に入ると、なぜか華凛も付いてくる。



 そして俺の名前を呼ぶと、華凛は眉をひそめ、真剣な面持ちに変わるのだった。

 

お姉ちゃん。私。学校でも家でも頑張るから。


一人で大丈夫だからね。お父さんがいない間も……ちゃんとするから


 華凛……


 思わず華凛を抱きしめていた。



 こんな事を言われたのは初めってだった。
 こいつも六年になって、少しづつではあるが一人で自立しようとしているのかもしれない。


なぁ華凛。今日はお姉ちゃんと一緒に寝よう。たまにはいいだろ?
あはっ。今日はお姉ちゃんが甘えん坊さん?
うん。甘えさせてくれ
はぁ~い。一緒に寝てあげるね

 華凛……ありがとう。

 親父が居ない間。ちゃんと俺が面倒見るし……守ってやるから。




 あぁ……今日は色々と疲れたな。

 とんでもなくハードだった気がする。


 聖奈の話に、平八さんと親父の謎。   

 白竹さん一家の演奏にはマジ感動したし。


 だけど最後、染谷くんに声を掛けられたのだけは……

 ああ、あんまり考えるのはよそう。

 



 今日はマジ疲れた。

 明日は休みだ。明日一日はとことんゆっくりしよう。


 そう思いながら服を脱ぎ、風呂場へと向かうのだった。



 二章本編終わり


――――――――――――――――


 

次回。3人の視点のお話があります。


  染谷龍一視点。染谷三兄弟の絆。

  美神聖奈視点。特別な存在。1~2

  白竹美優視点。美優と魔優。


 二章終了。


 三章開始。


  登場人物2

 

  三章本編開始。となります。  

 

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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