第134話 4ヶ月と9日目 10月4日(日)

文字数 1,452文字

 今日は派遣バイトがあったのだが、珍しく肉体労働ではなく事務仕事だったので、余り今日はバイトだと言う意識が無かった。
 それに超節約生活が余す処2日と、緊張感も危機感も節約生活の方に神経が集中していると言うこともある。
 そんな今日節約のことで頭が一杯になっている私であり、往路の電車の中で何か節約に役立つことは無いかと神経を集中させていた矢先、私とは百八十度違う感性の女性に出くわした。
 しかも無事派遣バイトを終え復路の途に就いた今、往路だけでなくこの復路でも一人、買い物依存症の疑いがある女性を見掛けたのだ。
 二人共エルメスやルイヴィトンのコテコテのブランドバッグに、靴底が赤いクリスチャン・ルブタンと思しきヒールを履いていた。
 ちなみにクリスチャン・ルブタンの靴底が赤いのは、彼が自身のサロンを開く際、助手のタロンの爪に塗った色と同じ赤いマニキュアを靴底に塗らせたのが事の始まりで、彼のトレードマークになったらしい。
 失礼、蘊蓄はそこそこに。
 偽物も多く売られているクリスチャン・ルブタンらしいのだが、彼女達のハイヒールの真偽のほどは定かではない。
 何れにせよ二人共コテコテにブランドで固めているのにピアスはフェイクのジュエリーで、何よりそれぞれ一人でJR京浜東北線に乗っていることが怪しい。
 水商売かなとも思ったが今日は日曜日だ。
 仮に日曜でもやっている店に勤務していたとしても、往路は午後一時頃なので出勤には早く、復路は午後8時半頃なのにも関わらず新橋でも有楽町でも降りなかったのである。
 彼女達が買い物依存症の可能性は高い。
 無論金持ちの彼氏もしくはパトロンが居て、自身では一円も使わずにそれ等コテコテブランド品を買わせている可能性もある。
 但しこれだけは言える。
 彼女達はお嬢様ではない。
 最近女子校出身のお嬢様評論家の女性にレクチャーを受けたばかりだし、その件で銀座に取材にも行ったところだ。
 本物のお嬢様は既成のブランド品なんか買わないのである。
 テーラーやオートクチュールで仕立てた誂えの服を着るのだ。
 依ってブランドコテコテ嬢は、偽お嬢様なのである。
 彼女達は何故身の丈に合った物を身に付けようとしないのか。
 とても悲しい。  
 私は究極に貧乏であるが、しかし究極の節約は非常にスリリングで、目標に到達したときの達成感たるや言葉では言い表せない程の快感なのである。
 彼女達に教えてあげたい。
 それにそんな無理をしているとしんどい筈。
 しかし私の心配をよそに、長い金髪を靡かせて復路で出会ったブランドコテコテ嬢は颯爽と降りていった。
 恐らく彼女達が私の思いに気付くのは、私の死後であろう。
 とか、考えているうちに競馬の開催時間は過ぎた。
 パチンコ屋の閉店時間にはもう少し時間があるが、大丈夫。
 行きたくとも千円も持っていないのだから、心配はない。
 今日の競馬やパチンコでの無事は派遣バイトと節約とそして貧乏に感謝だ。
 そして明日の競馬やパチンコでの無事は、コテコテブランド嬢が改心してくれることで確実と行きたいが、それはとても望めそうにない。
 なので節約で確実、と、言うか、するしかない現状なのだ。
 気を抜かずに後2日だけ我慢なのである。
 と、言いながら、明後日以降も貧乏だったらどうしよう。
 それって気のせいだろうか。
 否、気のせいではなく年中貧乏だ。
 但し私は身の丈に合った生活をしている。
 うーん、納得。
 
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