第29話 もう、いっぱい

文字数 977文字

 もう、いっぱい、素晴らしい作品は世に出たよ。
 あと、われわれにできることは、せいぜい、かれらの

をすることだ。
 かれらの作品を吟味し、生活になぞらえたり、頭の中、胸の中の栄養薬にして、かれらを踏み外すことなく、かれらの影を追うことになる。独創性、オリジナリティー、そのようなものとは無縁のところの、すべてが二番煎じになる。
 もう、出てしまったんだよ。神も遺跡も、創造すべきものは、もう何もない。
 かれらはそして

いる。限定された牢屋から、新しい一歩を踏み出すこともない。かれらの足は、かまされた重い鎖から逃れることもできない。時間、時間!

 繰り返し、繰り返し、きみはかれらの遺物を煎じて飲むようになる。そして飽きる!
 きみは創作にも飽きる、きみ自身の陋屋から、脱け出られないために。自分の限界以上のものを書けないために。飽いたのだ、自分自身に飽いたのだ、またかの言葉、またかの風景に飽きたのだ。ところが、残念なことに本心からは飽きられずにいるのだ。なぜなら、きみは今も生きているからだ。

自分自身に飽いたなら、きみはさっさと死ぬことができただろう。ところが、きみは生きている!
 どんなに飽いても、きみはきみ自身に飽きることはできないのだ。鳥の雛たちを見たか、狭い巣の中で押し合いへしあい、親鳥が戻って来れば、我先にとその口をおっぴろげ、エサを要求する。生命は、われわれに要求する、生きることを要求する。
 自死が、自然に反する、不自然の骨頂であるように、自分自身に飽きることは宇宙の法則

のことなのだ。

 したがって、きみはきみに、つねに縛られることになる。それが、きみの感じるところの、限界の正体だ。もしこれを持たなかったら、きみはどこまでも飛んで、爆発してしまっただろう。
 限界があることは、一種の自己保存、生存のための結界、自己防御壁、バリヤーの一種なのだ… これを、厭うこともない、わざわざ厭うこともない。ただ、自家中毒、真空パックに窒息せぬよう、気をつけなければならない…
 もういっぱい、素晴らしい著作は現れた。この上、何を上塗りしようというのか。
 それでも、何かを創作しようとする、求めようとする、要求をする。それはきみのせいではない。それはきみの、きみに宿った生命が要求するところのものなのだ。それは、きみ

の要求では

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