嘘もほどほどに

文字数 755文字

 いつからか「いい人ぶる」のが癖になっている。

 子どものころの方が、ずっとまともだった。
 合わない、と感じる人に無理に合わせることはなかった。
 かと言って露骨にそれを表すこともしなかった。

 今、そうできたらいいのに、どうしてできないのだろう。

「この人、なんとなく嫌い……」と思っても「そんなふうに思うのはだめなこと」と、その嫌いな気持ちを閉じ込める。そんな努力をしても、嫌いな気持ちがなくなることはない。
 そして、せめて「嫌いじゃなくて、普通」ぐらいの態度でいいのに、まるで「大好き」のような態度を取ることがある。

 当然、疲れ果てる。
 どんだけ大嘘つきなんだ。
 せめて、「普通」でいいではないか。

 このやっかいな癖を手放せる時は来るのだろうか。

 しかも、この大嘘には見返りもない。
 嫌いと思いつつ大好きなふりをしても、その相手から好かれることはない。
 確認したことはないけど、私の手応えではそうだ。
 なにをやっているのか。

 できれば、どんな人のことも嫌いにならずに生きていたい。
 さらっと上手に生きていたい。

 でも、「嫌い」センサーが反応してしまう。
 同族嫌悪かもしれない。

 来年、五十路に突入するのに、嫌いセンサービンビンって、このまま嫌な老人になりそうで、心底恐怖だ。

 穏やかに、朗らかに生きたいのに……。

 嫌いと思うことに罪は、きっとない。
 それをなんらかの形で表現することには、問題やら責任がついてくる。
 だから、思うだけならいいのだ。きっと。

 嫌いなもんは嫌い。

 そう思うことまで制限したら、パンクしてしまう。

 この歳になってまだこんなことで悩むなんて思いもしなかった。

 人間て意外と成長しないのかなあ……。
 それとも私に限って、あまりにも成長していないのかなあ……。

 とほほ、としか言いようがない。



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