◆ 成人編 ◆

文字数 1,064文字

 今の彼女と付き合い始めて七年、いっしょに暮らし始めて五年になる。同じ大学で知り合い意気投合、若さも手伝ってラブラブな日々を過ごした。
 大学を卒業し就職した俺がひとり暮らしを始めると、彼女は通ってくるようになりそのまま住みついてしまった。そんな形で始まった同棲だったので、結婚などというものはまったく俺の意識になかった。
 
 ところが、五年もたつとそうはいかないことに気づいた。彼女が結婚雑誌などをそれとなく見ていたり、姪の話をしては子どもってかわいいとか言い始めたからだ。その流れはごく当たり前のことで、今の状態を続けることの方が不自然なのかもしれない。
 でも、俺にはまだ結婚というものがピンとこなかった。この彼女と生涯を共にすることなど考えたこともない。やはり、ダラダラと同棲に突入したのは間違いだった、と今頃気づいてももう遅い。
 女の立場からすれば、一番大切な時期を俺と過ごしたことになるのだから、その時間を返せ、と言われても仕方がなかった。
 だが、男の立場から言わせてもらえば、恋愛と結婚は別だ。それに、俺から頼んでいっしょに暮らしてもらったわけではない。向こうが転がり込んできたのだ。そうは言っても、やはりこちらの方が分が悪い。
 今さらだが、結婚の意思がないことをちゃんと初めに伝えておくべきだった。あるいは、結婚する気がないのなら長く付き合うのは避けるべきだったのだろう。結果的に好きになった女を傷つけてしまったのだから、男としては最低だ。若さと流れに任せていい思いをした代償は大きかった。
 
 
 俺は今、ひとり暮らしの気楽さを存分に味わっている。この生活を手に入れるのに二年という月日を要した。
 彼女は結婚を望み、俺は同棲の解消を求めた。この相反する最悪の状況を収めるために費やしたエネルギーは半端ではなかった。
 結婚より離婚が大変だと言われるが、長い恋愛、同棲の終焉も、社会的な問題や子どもの件が差し引かれるだけで、心理的負担は同じくらい大変なものだ。今後誰かと結婚する時は、再婚ではないかと錯覚するくらいの労力を費やした。
 俺の責任として彼女の気持ちの整理がつくまで話し合いにも応じたつもりだが、別れたいという意思が固い以上、早く縁を切った方が彼女のためだったかもしれない。
 とにもかくにも自由を手に入れた俺はもう、女も恋愛も懲り懲りだと思った。そんな時、一通の手紙が届いた。結婚式の招待状だった。俺は心の底からそいつが気の毒に思えた。
(何も好き好んで苦労することもないだろうに)

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