第3話 ピーターパン(3)

文字数 827文字

 優人が帰宅すると忠博がリビングで夕刊を見ていた。
「おかえり、優人。今日は楽しかったか」
「楽しかったよ」
「それはよかったが、女の子と遊ぶのに夢中になって勉強を疎かにするんじゃないぞ」
「わかってるよ」
 話し終わると忠博は夕刊を閉じ自分の書斎へ入っていった。忠博が入っていくのを確認すると優人も自分の部屋のある二階へ向かった。
 部屋には勉強机の上に夕飯と「これ食べててね」というメモ書きがあった。優人は忠博に母さんがどこにいったか聞こうかと思ったがあまり今は彼と話したくなかったので止めた。それに大体の見当はついていた。優人の母の父、すなわち優人の祖父は数年前に脳梗塞を患いそれが原因で右半身不随となった。彼は常に車いすがなければ生活ができないようになってしまったが優人の祖母と本人の意思を尊重し老人ホームや介護施設には入居しないこととなった。そのため娘である優人の母は実家と家が近いこともありしばしば父の介護をしに実家に戻っていた。
 二十一時過ぎ、優人はスマホが鳴ったので勉強していた手を止め確認すると倉木からメールが届いていた。何気に個人的に倉木からメールが来るのは初めてだった。
「夜分遅くにごめんなさい。今日は楽しかったです。ありがとう。でもまだ歌い足りなくてよかったら二人でもう一回カラオケ行かない?」
 優人はうれしくてたまらなった。少し興奮が収まると優人はこれでこの気持ちの正体に白黒つけることを決心した。
「僕も歌い足りなかったんだよね、いきたいな~」
 優人はメールを返すとすぐにインターネットを開き最近の人気曲をひたすらきいた。いままで必死に運動方程式を解いていたのも忘れて。
 二十二時頃、優人の母が帰ってきた。やはり彼女は実家に戻っていた。
「五月五日さ、智晴と図書館で自習してくるね」
 優人は一階にある冷蔵庫から緑茶を取り出しながら母に言った。何かをしながら出ないと嘘をついている優人は自分を許せそうになかった。彼女は何も疑うことはなかった。 
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