テンゴク
文字数 533文字
家族も友人も皆天国に行き、わし一人がこの世に残されている。わしも早くと思うが自分で命を絶つとそれが罪となり天国に入らせてもらえないかもしれない。ゆえに飢えた虎にこの身を投げ与え願いを果たそうと思う。
しかし昨今虎の方が人間より満ち足りている様子、山々を訪ね歩いても、なかなか飢えている者が見つからない。家族たちに早く逢いたい一心で山中をさまよう。その間、狼の死骸でも蛇の抜け殻でも天狗の鼻の腐った物でもなんでも食べた。
ようやくまあまあ痩せた虎を見つけその前に体を投げ出すと、臭いと顔をそむけられた。逃げる虎を追いかけどうか食べてくれと叫ぼうとするが声が出ない。
虎が逃げこんだテントにわしも駆け込むと、大男に臭いと罵られ棒でさんざん叩かれた。男は虎や大蛇や禿鷹を飼って旅する集団の長であった。
今、わしは奇妙な山猿として檻に入れられ、大男たちに従って旅をしている。長いこと山をうろついているうちに人の言葉の喋り方を忘れ、自分は猿ではなく人なのだと証を立てられなかったのだ。依然としてこの世に生きながら、いろんな街で晒し者になっている。困ったことに与えられる飯が口に合い、いつまでも死にそうにない。あの虎はとっくに寿命で死に、わしの餌となって天国に行ったというのに。
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