第9話 手がかりを探そう

文字数 1,740文字

 大きな庭のある屋敷。輪吾(りんご)那由(なゆ)がインターホンをならすと、二十歳くらいの家政婦さんがせかせかと扉を開けた。
大舘(おおかん)さんがお待ちです」
 彼女はだいぶ疲れているようだ。大舘の怒号につきあわされでもしたのだろう。
「失礼」
 那由は、ずんずん奥へ進む。

 応接間で、大舘は丸くなってソファーの上にいた。
明智(あけち)さん」
 分厚い手のひらで何度も携帯電話をさすり、小刻みに足を揺らす。
「申し訳ありません。みすみす、このような」
 那由は頭を下げた。輪吾もそれにならう。
「いえ、こちらこそ、とりみだして」
 大舘はため息を吐いて肩を落とした。
「どこに行ってしまったんだろう……」

 那由はしばらく黙っていたが、それ以上大舘が何も言わなさそうなのを見ると、おもむろに口を開いた。
「いくつかお訊ねしてもよろしいでしょうか」
「……ええ」
流瓈(るり)君が誘拐された時、どのような状況でしたか」
「……」
 大舘は目を宙にさまよわせた。
「どのような……。分かりません。私は、出かけていました。会議があったんです。家には鍵を二重にかけて……。流瓈(るり)には自室にいるよう言いましたし、あいつの部屋にも鍵を掛けました。外へは出ようがなかったはずです。なのに、帰ってきたら、流瓈(るり)がいなかったのです。この屋敷の、どこにも!」
「なるほど」

 那由は眉ひとつ動かさない。
「家政婦の方は?どこで何をされていましたか」
「……佐川(さがわ)さんですか?」
「はい」
 輪吾は二人の会話を聞いて、家政婦さんを振り返った。なるほど、佐川と書かれた名札を首から提げている。
「佐川さんは、この家にいました。一度買い出しに行ったほかは、ずっと家にいたはずです。ですよね?」
「ええ」
 佐川は口をすぼめる。
「私は、誘拐などしておりませんからね。他に庭師も屋敷におりましたが、彼はずっと裏庭で作業しておりました。裏庭の門から何度か出入りはしたそうですが、流瓈君の部屋には近づいてすらいないハズです。彼は部屋の鍵も持っていませんし」
 念を押すように言う佐川に、那由は片眉を上げた。
「ああ、失礼。疑っているわけではないのですよ。佐川さん、あなたが買い出しから戻った時、流瓈君は家にいましたか?」
「ええ」
 佐川はまた、頷く。
「部屋から何度も声が聞こえましたから、間違いありません」
「中を確認しましたか?」
「いいえ」
「では、録音などの可能性もありますね」
「はい?」
 佐川は目をむいた。
「あり得ませんよ、明智さん。録音した流瓈君の声が流れていたのなら、部屋の中にそのための機器があるはずでしょう? 流瓈君の部屋に、そんなものはありませんでした」
「なるほど……。流瓈君の部屋に窓はありますか?」
「ありません。出入り口は、廊下に面するドアだけです」
 輪吾はそれを聞いて自分のそばかすをなぜた。
「どういうことだろうね」
「さあ。――ああ、そうだ。少し家の中を見せていただいてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん」

 那由はまず流瓈の部屋に向かった。ドアを開けるとチェーンが引っかかった。チェーンは外から掛かっている。流瓈が勝手に外へ出てしまわないように付けたものなのだろう。備え付けの鍵は内外両側から操作できる電子キーだ。那由はドアを閉めて、部屋の前の廊下の床をなでる。
「輪吾君」
「何?」
「ぬくい。何か温かい物が置いてあったのだ」
 それから流瓈の部屋を出て隣の部屋に入る。
「那由?」
 輪吾の呼びかけには応じず、数秒後には部屋を後にする。
「もういい」
 すたすた足を進めた。

「ここがキッチンか」
 シンクは水で濡れていた。ゴミ箱のふたを開け、那由は鼻をつまむ。
「臭い」
「だね」
 まだ新しい野菜の皮が捨てられている。ジャガイモ、玉ねぎ、にんじん、そんなところか。今日のメニューはカレーだったのかもしれない。

 二人でリビングに戻ると、大舘はネクタイをなでつけながら、那由に視線を送った。
「何か、分かりましたか?」
「今はまだ何とも」
 那由は淡々と答える。
「また来ます。流瓈君を取り戻せるよう努力します」
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登場人物紹介

明智那由(あけち なゆ)


公立探偵。容姿端麗。常にインバネスコートを着用。

物事の理解が早く、暗記力も抜群。

心優しいが、不器用で感情表現が苦手。人間不信気味。

大河内輪吾(おおこうち りんご)


中学3年生。那由の助手になる。

童顔だが筋力があり、運動も得意。非常に心優しい。

明るい言動とは裏腹に、自己否定的な面も持ち合わせている。

モモ


那由の部下。ライトの上司。警察官。

豪快で、防弾ガラスの心を持っている。我が道を行く人。

髪の毛の手入れに全力を注ぐ日々。

ライト


モモの部下。警察官。

押しが弱いし、押しに弱い。イケメンなお金持ちで、お洒落さん。

純粋。弱者に優しいタイプ。

最上雄基(もがみ ゆうき)


輪吾の親友。偉大な博士であり道楽家でもある晴時(はるとき)を曽祖父に持つ。

友達思いで、何かあったらすぐ助けに行ってしまう。

勉強は苦手。ファッションにこだわりがあり、奇抜な服装を好む。

佐竹巧(さたけ たくみ)


女の子が大好き。特に好みなのは、巷で「ぶりっ子」と評されるような女の子。

「二股している時に遊びで付き合っている彼女とデートしているところを本命の彼女に見られ、両方からフラれた」といった噂が山のようにある。だけど、根は良い奴。友達思い。

友江洋貞(ともえ ひろさだ)


端正な顔立ちで人当たりが良く、経済的にも恵まれている。いわゆる『学校の王子様』。

クラスで浮き気味な、輪吾・巧・雄基のことを気にかけている。

ちなみに大学卒業後はミュージシャンとしてデビューし、『世界の王子様』になる。

大河内凛太(おおこうち りんた)


輪吾の父。仕事人間。

輪吾のことを、過保護なくらい大切にしている。

志田晴人(しだ はると)


那由の師匠。公立探偵から美術教師へと転身した。

「人間は欠陥品だ」と捉えているが、唯一無二の親友である小田切のことは「完璧」と評している。

『あな言』に登場する志田圭斗の孫。

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