第89話 拡大閣議:2024年1月

文字数 2,076文字

(閣僚に最高裁判所判事を加えた、拡大閣議が開催された)
2024年1月。東京。ネット会議。
閣議メンバーと最高裁判所の裁判官の顔が見えた。洋子が口を切った。
「本日の会議をどのような形式で開催すべきか、迷いました。今回は、最高裁判所の裁判官の方も参加していただく、拡大閣議という形で開催したいと思います。座長は、南山が務めさせていただきます。
日本は、三権分立ですから、内閣政府は、裁判所の裁判に口を挟むことはありません。しかし、裁判もいきもので、その時の社会情勢や社会常識を反映した法解釈でなければ、国民の支持は得られません。このため裁判官の方々が、常に鋭意努力されていることは、承知しています。
また、裁判と示談の間にあるような案件をサポートするために、裁判所と法務省が協力して、AIを使った、相談窓口システムの構築を既に進めていることも聞いています。
ただし、昨今の社会情勢の変化は、急激です。全ての問題を問題が起こってから裁判で対応すると、後手に回って、膨大な労力がかかってしまいます。特に、新しいIT技術の活用では、この面が大きくなります。2000年代に、WEBサービスが広まった時に、日本国内では、サーバーに掲載する情報は、サーバーの提供者が、事前に、著作権法の問題をクリアすべきという裁判所の判断がなされました。一方、米国では、掲載後にクレームがあった場合に、サーバーの提供者が、事後に、問題情報を削除すれば合法であるという判断がなされました。その結果、日本国内にサーバーは、置けなくなりました。WEBの表示言語が日本語でも、サーバーは米国にありますから、サーバーに掲載された広告収入はほとんど米国企業の儲けになってしまいました。こうした状況を鑑み、情報交換の場が必要だという認識を深めています。そこで、閣議メンバーと最高裁判所の情報交換の連絡会議を儲けさせて頂きました。今回の会議は、内閣府の発案です。今後、最高裁判所から連絡会議の開催を提案して頂いてもかまいません。
趣旨は以上です。よろしいですか」
一同、うなずく。
「それでは、本題に移ります。今回の議題は、『短期間に、合法的に年功型雇用をジョブ型雇用に切り替える方法があるか』ということです。
皆さま、ご承知のように、現在の日本経済が危機に陥っている主要因は、年功型雇用です。また、ジェンダー問題解決についても、年功型雇用が大きな障害になっていることは間違いありません。
非ジョブ型雇用、つまり、年功型雇用は人権侵害であるという判断が国際司法裁判所から出されています。もちろん、経済界は、これに、反論することになるでしょうが、無条件で合法にするのは難しいでしょう。仮に、条件付きの年功型雇用は、人権侵害ではないと認められても、企業が、年功型雇用から、ジョブ型雇用に移行可能であれば、年功型雇用に留まるメリットは、有リません。非ジョブ型雇用が、合法か、否かはさておいて、企業にとって、問題は短期間にジョブ型雇用に切り替える現実的な方法が不明なことです。既に、年功型雇用で採用されている人が、退職するまでを考えると、全ての変更が完了するのは、45年後になります。一般に、組織の寿命は30年といわれますから、これは、不合理です。また、現在のIT環境では、大きな変化も、10年以内に起こります。ですから、短期間に、年功型雇用をジョブ型雇用に切り替えたいと考えている企業は多いでしょう。30年、40年前の採用時の契約が有効であるから、年功型雇用をジョブ型雇用に変更することは違法であると裁判を起こすことは可能です。しかし、裁判に勝っても、企業が倒産してしまえば、被雇用者には、得られるものが無くなります。この点を配慮して、合法的に、短期間に、年功型雇用をジョブ型雇用に切り替える方法が求められています。
私も、この問題を、ずっと検討してきましたが、今まで、良い方法が見つかりませんでした。
ここに、『ゼロリセット計画』という方法があります。これは、年功型雇用をジョブ型雇用に切り替える方法です。これが、合法か否かは、私には、わかりません。ただし、今まで、検討してきた方法の中では、一番有望な方法であると考えています。
この方法については、日本経営連から、方法の紹介と検討の要請があったので、ここに議題に取り上げています。
もちろん、検討課題は、短期間にジョブ型雇用に切り替える合法的な手段を提示することです。これができないと、国と企業の単位で、経済制裁の対象になります。UNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)に従い、BtoBでは、人権ブラック企業と認定されると取引の停止を受けてしまいます。これは、日本企業も、日本経済もひとたまりもありません。組織を変えるために残された時間は、数か月しかありません。このため、今回は、異例ではありますが、こうしてお願いしている次第です」
最高裁判所から、発言があった。
「趣旨は、分かりました。早急に、裁判所内で、検討して、何が出来るか、ご報告したいと思います」
拡大閣議が閉じられた。
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