第3話 ジョン・ケージ
文字数 1,446文字
*****
そこには、猫背をした顔色の悪い細い目の生徒会副会長・空美野涙子の姿があった。
ピンクの長髪をかき上げて、
「よぉ、コノコ」
と、軽い口調で、涙子は朽葉コノコに挨拶した。
「わたしには! わたしには挨拶はないんですかぁ、涙子さんんんん」
「はぁ。お前には危機感ってもんがないのかよ、佐原メダカ」
「メダカって呼んでくださいって、いつも言ってるじゃありませんか!」
「ま、どーでもいーや。あたしは、今回、お前らの敵につくぜ」
ベンチに座ったまま、コノコは問う。
「ど-いう意味なのだ、涙子ちゃん」
涙子は「グエグエッ」と咆哮したかと思うと、コノコが座っているベンチを上から踏みつけるように蹴った。
一撃で真っ二つに割れるプラスチック製のベンチ。
プラスチックの破片が周囲に飛び散る。
朽葉コノコはそれを転がるように動いてかわした。
腕が動かないので下半身の力で転がって、それから飛び上がって、体勢を立て直す。
「卒業式の日の朝にやることじゃないのだ、涙子ちゃん」
「卒業式だから、やってんだよ、コノコ」
「ふゆぅ……どういうことですかぁ、涙子さんー! わたしのこと、嫌いになっちゃいましたかぁ」
「お前はもとからそういう目では見れないんだよ、佐原メダカ」
「ひどい! 傷つきましたぁ!」
「勝手に傷ついてろ!」
涙子の回し蹴りがメダカを襲う。
回し蹴りが顔面にぶつかろうという刹那、コノコが足払いでメダカを転ばせる。
「痛っ! なにするんですかぁ、コノコ姉さん」
「涙子ちゃんに蹴られたら無事じゃすまないのだ」
「痛ててててて」
今度は飛び膝蹴りがコノコを狙う。
「〈ライミング・カプレット〉!」
コノコが詠唱すると、即座に涙子の膝とつま先の「二か所」が切れて、血が飛び出る。
すぐさま足を引っ込める涙子。
「ライミング・カプレット……。二行の行末に二回の脚韻。〈二行連句〉の術式か……クソッ」
「涙子ちゃんも条件は一緒。腕や手が使えないのは知ってるのだ。わたしたちは今、見えない〈ケージの中〉にいる」
「正体……わかるか、コノコ?」
「知ってる。青葉フロニカちゃん、なのだ」
「今日は青葉が仕掛ける。あたしはその手伝いをする。それを伝えようとした。だが、自分の身は守れる、か。コノコ。問題に首を突っ込むなよ」
「意味がわからないのだ。首を突っ込む意味なんて特にないよ、わたしには」
「そうか。じゃあ、4分33秒間、ここにいろ。ケージが消えて、動けるようになって、固有結界が消える」
「ケージ。檻。でも、ジョン・ケージでもあるところが〈ディスオーダー〉なのだね、青葉フロニカちゃんは」
「そういうことだ」
メダカが体を起こす。
「あれ? 涙子さん、いつの間にかいなくなっちゃいましたねぇ」
「卒業式。お礼参りっていう風習が、いまだあるんだねー」
「おれいまい……り? なんです、それ?」
「わたしにもさっぱりなのだー!」
人々がどこからともなく行き来するように、世界が戻った。
コノコは何事もなかったように、空中庭園を目指して歩く。
メダカも一緒についていく。
ケロリとした態度で、普通に戻る二人。
戦闘があった。
それなのにすぐに、なにもなかったかのように日常へ戻れるコノコとメダカの二人はとても異常で、なおかつ同類なのかもしれなかった。
そこには、猫背をした顔色の悪い細い目の生徒会副会長・空美野涙子の姿があった。
ピンクの長髪をかき上げて、
「よぉ、コノコ」
と、軽い口調で、涙子は朽葉コノコに挨拶した。
「わたしには! わたしには挨拶はないんですかぁ、涙子さんんんん」
「はぁ。お前には危機感ってもんがないのかよ、佐原メダカ」
「メダカって呼んでくださいって、いつも言ってるじゃありませんか!」
「ま、どーでもいーや。あたしは、今回、お前らの敵につくぜ」
ベンチに座ったまま、コノコは問う。
「ど-いう意味なのだ、涙子ちゃん」
涙子は「グエグエッ」と咆哮したかと思うと、コノコが座っているベンチを上から踏みつけるように蹴った。
一撃で真っ二つに割れるプラスチック製のベンチ。
プラスチックの破片が周囲に飛び散る。
朽葉コノコはそれを転がるように動いてかわした。
腕が動かないので下半身の力で転がって、それから飛び上がって、体勢を立て直す。
「卒業式の日の朝にやることじゃないのだ、涙子ちゃん」
「卒業式だから、やってんだよ、コノコ」
「ふゆぅ……どういうことですかぁ、涙子さんー! わたしのこと、嫌いになっちゃいましたかぁ」
「お前はもとからそういう目では見れないんだよ、佐原メダカ」
「ひどい! 傷つきましたぁ!」
「勝手に傷ついてろ!」
涙子の回し蹴りがメダカを襲う。
回し蹴りが顔面にぶつかろうという刹那、コノコが足払いでメダカを転ばせる。
「痛っ! なにするんですかぁ、コノコ姉さん」
「涙子ちゃんに蹴られたら無事じゃすまないのだ」
「痛ててててて」
今度は飛び膝蹴りがコノコを狙う。
「〈ライミング・カプレット〉!」
コノコが詠唱すると、即座に涙子の膝とつま先の「二か所」が切れて、血が飛び出る。
すぐさま足を引っ込める涙子。
「ライミング・カプレット……。二行の行末に二回の脚韻。〈二行連句〉の術式か……クソッ」
「涙子ちゃんも条件は一緒。腕や手が使えないのは知ってるのだ。わたしたちは今、見えない〈ケージの中〉にいる」
「正体……わかるか、コノコ?」
「知ってる。青葉フロニカちゃん、なのだ」
「今日は青葉が仕掛ける。あたしはその手伝いをする。それを伝えようとした。だが、自分の身は守れる、か。コノコ。問題に首を突っ込むなよ」
「意味がわからないのだ。首を突っ込む意味なんて特にないよ、わたしには」
「そうか。じゃあ、4分33秒間、ここにいろ。ケージが消えて、動けるようになって、固有結界が消える」
「ケージ。檻。でも、ジョン・ケージでもあるところが〈ディスオーダー〉なのだね、青葉フロニカちゃんは」
「そういうことだ」
メダカが体を起こす。
「あれ? 涙子さん、いつの間にかいなくなっちゃいましたねぇ」
「卒業式。お礼参りっていう風習が、いまだあるんだねー」
「おれいまい……り? なんです、それ?」
「わたしにもさっぱりなのだー!」
人々がどこからともなく行き来するように、世界が戻った。
コノコは何事もなかったように、空中庭園を目指して歩く。
メダカも一緒についていく。
ケロリとした態度で、普通に戻る二人。
戦闘があった。
それなのにすぐに、なにもなかったかのように日常へ戻れるコノコとメダカの二人はとても異常で、なおかつ同類なのかもしれなかった。