第89話  危険人物 

エピソード文字数 3,555文字

 ※



 姿は確認できないが、彼女の声のような気がした。


 確かめる為に窓の外をそーっと見てみると……女子の制服にあの水色ロングの髪の毛が見えた瞬間、素早く身を隠す。



 マジで竜王さんで正解だった。


 だけどさっきの独り言にはやたら違和感を感じる。まるで男のような口調に一瞬戸惑ったからな。

く、くりょ……
大丈夫です

 まずいな。この部屋に踏み込まれてしまえば色々と厄介だ。


 俺達がこんな場所で密会しているなんて知れたら、俺はいいが美優ちゃんに迷惑を掛けてしまう。



 何とか身を隠す場所を探してみるが、部屋は物だらけで人間が一人隠れるスペースなんて無い。そう思ったが……

美優ちゃん。この下に……

 机の下に彼女を誘導すると、部屋の奥にあったシーツのような白い布を机の上に広げた。


 俺はその上に座り、足をぶらんとさせると、そのタイミングで部屋のドアが開いた。

うわっ!
おっと

 竜王さんは中に人がいるとは思わなかったのか、とんでもなくビビっていた。当然俺も驚いている様子を見せながら、ポケットからスマホを取り出していた。


 一人でサボってる場面でも演じなければ。

 瞬発的な演技には定評のある蓮であった。

何してんの、こんな所で
あ、いや……サボリっす

 とりあえず、美優ちゃんとの密会がバレなければいい。

 それに彼女には……美優ちゃんとの接点はあまり持たせたくない。



 そう思っていると、俺はすぐに美優ちゃんを隠したのは正解だったと、ほっと胸を撫で下ろすのであった。


 というのも……



 竜王さん特有の笑顔など、この時ばかりは一欠片も見えなかったどころか、俺を少し睨んだ風にも見えるし、馬鹿にしたような態度にも見えたからだ。

ここ。私の秘密基地なんだけど。勝手に入んなよ

 ご覧の通り、とんでもチンピラ口調になってしまった竜王さん。俺に鬱陶しそうな顔を下さった。

 俺は笑顔で「そりゃすみませんね」と低姿勢を見せる。

早く消えろ。ウザイっつーのてめぇ

 これがお前の正体か。とんだタヌキ野郎だったな。

 あまりの変貌ぶりに笑っちまいそうだ。

竜王さん? えらくご立腹なようですね。急なキャラ変更に俺もタジタジっすよ
 こりゃ机の下にいる美優ちゃんには気付いていないようだ。
いいからどけっつってんだろてめー? ボコられてーのか

 凄い剣幕で迫ってきた竜王さんに、俺は微動だにしない。

 明らかな敵意を見せられても、何も怖くない。


 そういうエキサイトなシーンは慣れてるんだよ。




 でもな……出来れば美優ちゃんがいることを知られたくないんだが……

 こいつに出て行けと言われてしまったのなら……



 そう思っていると、屋上のドアが開く音に俺も竜王さんも気を取られる。

 すると竜王さんが軽く舌打ちした瞬間、王二朗くんの声が聞こえた。

おいこらっ! 話は済んでねーつっただろ
うるせーってマジでもうっ! てめぇもここから突き落とすぞ
 急に言い合いを始めた二人だったが、王二朗くんが部屋の中に俺がいるのを確認すると、その極道顔が少し柔らかくなる。
あ、君は……
どうも。王二朗くん。久しぶりだね

 先週も今週も二人を見てなかったからな。

 俺は普通に挨拶すると、竜王さんが再び吼える。

おいてめー。なに普通に話してんの? さっさと消えろよ!
 すると王二朗くんは照準を変えて竜王さんを睨み出した。
あ? なんだお前。あの子らとは仲良くするんじゃなかったのかよ

野郎なんてどーでもいいだろ? 

何でこんな奴に愛想良くしなきゃいけねぇんだよ。ふざけんな

 竜王さんの変貌振りも凄まじいな。台詞だけじゃその辺のチンピラと何も変わりはしない。



ふっ。まぁいっか。

黒澤くん。分かってくれた? こいつは……こーいう奴なんだよ

 やれやれと言った感じの王二朗くんだった。
なるほどね。了解したよ
君の友達にも言っておいてくれ。こいつはマジで頭狂ってるから

 言わなくても、今この場所に美優ちゃんがいるんだけどな。

 


 そう思っていると――


 王二朗くんの視線が俺の足元に伸びると、一瞬だが眉間にシワを寄せる。



ん?
まずい……バレたか?

 だが王二朗くんは何も言わず、今度は俺と目線を合わすこと三秒ほど。

 じっと目を逸らさないでいると「まあいっか」と前置きしてから、竜王さんに向き直る。

おい。冴子。もうお前には付き合いきれねーわ。


縁。切らせてもらうぜ

えっ? 王二朗くん?
はっ! 勝手にしろよ。元はといえば、お前が俺を追っかけ回してたんだろうが!

 あの笑顔満開ニコニコ竜王さんが、俺とか言いだすと、驚きを通り越して笑えてくるぜ。

 いやー。マジで人は見かけによらないんだなと、しみじみ思うのであった。

お前は……この高校で真面目にやるって言ってなかったのか? 最初は黒澤くん達と仲良くやろうとしてんのかと思ったが……やっぱりこういう結果に終わるのか。


まぁ分かってたけどな

てめーはそういう奴だ

 その瞬間だった。


 王二朗くんの拳が部屋の壁に激突すると、物凄い音と共に部屋全体が揺れ出した。


さっさと去ねよ。てめーの顔なんざ見たくない

 淡々と語る方が余計に恐怖を感じてしまう。


 突然の王二朗くんのキレっぷりに、その様子を見守っていると、俺の足元に美優ちゃんの手が伸びてくる。



 ちょ! 待って!

 怖いのは分かるけど、バレちまいますって!

ああそうかよ。じゃあ俺は好きなようにやらせてもらう。

お前がいなくなってせーせーするぜ

 王二朗くんの極道顔と、更にキレ顔にも全く動じてないどころか馬鹿にしたような口調に、こいつも相当な曲者だと思わざるを得ない。


 あんな顔で迫られたら、初対面の人間なんて小便ちびりそうだぜ。

おい。お前! このくそゴリをよろしくな。ちゃ~んと飼育してやってくれよ。

バナナは一日三本な。やりすぎに注意しろ。


ちなみにこいつは……超偽善者だから。っつーか。頭ん中マジゴリラなんで

 そう言い残し竜王さんは笑いながら部屋を出て行こうとする。
てめーも次にあったら。ぶっ殺してやるから
やれるもんならやってみろ。俺も容赦しねぇ
 出て行った竜王さんは、ドアを蹴り飛ばしてから「じゃーねー」と可愛い声を出すと、屋上から姿を消した。


 ふうっと溜息を吐く王二朗くん。



 ようやくこちらを向くと、先程までの破壊神のような顔ではなくなり、どことなしか疲れたような顔になっていた。

ごめんね。見苦しいところを見せてしまった
 巨体を屈めて一礼すると、王二朗くんはその場にしゃがみこんだ。
もう大丈夫ですよ。白竹さん。化け物はいなくなりました。

 そう言ったのは王二朗くんだった。

 やっぱり……バレてたのか。さっきの視線はやはり……

美優ちゃん。大丈夫です。心配ありません

 そう言っても出てこない美優ちゃんは、俺の足をしっかり持っていた。


 もう王二朗くんには手が見えてるから。大丈夫ですって。

れ、れんくん……

 雨音でかき消されそうな、とても小さい声。


 俺はシーツをめくって、美優ちゃんの手を取ると、引っ張り出そうとした。


 だが予想外に飛び出してきた彼女の身体をキャッチすると、そのまま押し倒されそうになる。

大丈夫ですって。俺がいます
 ううっ。思いっきり抱きしめられている。

 じゃなくって! 美優ちゃんはきっと凄く怖かったんだって!

落ち着いて。ね?
めちゃ怖かったでし……

 その身体を離すと、さっきまで二人で話していた机に美優ちゃんを乗せると、俺はその前に立っっていた。


 すぐに後ろから伸びてくる手が俺の袖を掴んでいた。

 それがなんとなく……凛の仕草に似ているのが、めちゃ可愛いと思ってしまった。

ぬうぅっ。白竹さん!


スカートの中が丸見えっす。しかも短パンからフリフリショーツがはみ出てる事態に! むしろこっちのがエろ……

 急に立ち上がった王二朗くん。少しばかり顔が赤いのに気が付いたが、それよりも鼻血がたらーっと流れてるぞ。


 思わす突っ込みそうになったが、鼻をすする音が聞こえてくると、一瞬で赤い物体は鼻の中に吸い込まれた。

 あ、まさかとは思うが……


 確かにその位置だと美優ちゃんのスカートの中が丸見えでしたね。


 これは何も言わない方がいい。何気に視線をずらした王二朗くんは紳士であると思った。


 大丈夫。俺もそう言う意味では紳士なんで。

 何も言わない。気付かないフリ。これ大事。



 まぁでも西部とは大違いである。あいつならこんなラッキースケベなんて諸手を挙げてバンザイしそうだなこりゃ。



 まぁあんな奴と比べるのも王二朗くんに失礼だろ。



 

黒澤くん。白竹さん。マジですまなかった。

ちょっとだけ……俺の話聞いてくれると嬉しいんだけど。

 とても腰の低い王二朗くんは何度も頭を下げるので、俺も気を使って「いいですから」を連呼した。


 えらく緊迫した場面に出くわした訳だが、彼の話も聞いたほうがいいだろう。


 

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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