第1話 遊部の少女

文字数 918文字

 あんたらの時代にもあるんかな?遊部(あそびべ)いう仕事。ない?…まぁ、そうやろね。1000年も経ったら陵(みささぎ)なんか造らへんよな。陵は知ってる?…天皇さんのお墓やねんけど。古墳?そう言われてんの。ふーん、時代が変わると言葉も変わるんやな。
ちなみにあんたら、私の言葉はわかってはるの?最新の技術で翻訳してる?へぇ!…未来ってえらいことができるんやねぇ。
 1000年も先の時代の人とこうして話せるなんて、なんや不思議な気持ちやわ。とりあえず、あんたらの【研究】のために、私らのことを話したらええやね。なんやよう分からんけど、ほな、話を続けさせてもらうわ。

 そうそう。遊部の話やったな。偉い人のうなるやろ?でも、家族も偉い人やから、わぁわぁ泣いたりできへん。だからうちらが大声で泣いてあげるんや。そしたら、死者の魂が喜びはる。
 あとな、うちらは殯の間中、死者を称える歌を詠んだり、歌ったり踊ったりもするねん。なんでかって?死者の魂を軽くなってあっちの世界に行きやすくなるんや。陵の暗い岩室の中で、一生懸命に歌い、踊り、泣く。まぁ、そんな仕事やねん。
おもろそうやろ?
 うちらの家は、この世ができたときからずーっと遊部やった。でも、私が生まれた頃には、そういう魂の慰め方は、とっくに時代遅れになっていたらしい。
 仏の教えが伝わって、「仏さんに直接祈るのが速い」いうことになったんやて。そら、魂かって、遅いより速い方がええに決まっているわな。そんなこんなでうちらは食いあぶれてしもてん。

 それで、うちのオカンは、オバアと生まれたての私を連れて、当時河内あたりを流れていた無著上人さんのところに身を寄せた。
 無著上人の名前は伝わってる?…伝わってへんか。それはそれは徳の高いお坊さんでな。幼心に、菩薩さんってこんなんやろうなと思ったもんや。
 お上人さんは、寺にいては民は救えないと20の頃に寺を出たお方。摂津の連のご子息とかで、涼しい目と青々とした剃り跡の美しさ、低くて心地良い声が素敵やった。
 私が15の頃には、もう30も半ばになってはったけど、未だに少年のような若々しさがあった。在家の女も尼さんもみんなお上人さんに夢中やったわ。
 
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