1話 俺は、もう大人です(5/5)

文字数 1,188文字

「ふー、なんとかなったな!」
家中の片付けを終えて、俺は息をついた。
「わーいっ、お部屋、ピッカピカになったねー」
「ライゴがいっぱい手伝ってくれたからな!」
言って、俺は俺と同じくらいの大きさのライゴの頭を撫でた。
「えへへ」とライゴが嬉しげに目を細める。
どうやら子どもたちはどちらも撫でられるのは好きみたいだな。
少なくとも、このサイズなら、撫でてやることも、抱きしめてやることもできる。
抱き抱えるのはちょっと無理だが、今までに比べればずっとマシだ。

鳥だか魚だかわからないような形の時計が鳴って、ライゴが瞳を輝かせる。
「あっ、おやつの時間だ!」
この子達は朝昼晩の間に一度ずつ、この時計が鳴った時におやつを食べていいことになっていた。
ライゴはこのタイミングでいつも冷蔵庫のようなものから、牛乳のような白い液体を出して飲んでいた。

あ。そうだ。
俺は思いついて、ライゴと一緒に冷蔵庫のようなものを覗き込む。
確か朝食べていたフルーツのようなものが残っていたはずだ。
この貯蔵庫の中のものは勝手に使っていいと言われていたので、俺はそれと砂糖を混ぜて、フルーツ牛乳のようなものに……今回のは赤いイチゴのような甘酸っぱい木の実だったので、イチゴ牛乳か? とにかくそんなものにしてやった。

「わあーっ、甘くて酸っぱいの。美味しいねーっ♪♪」
ライゴが目をキラキラさせて飲んでいる。
口の周りについてしまった白い髭も、今日は拭いてやれた。

「シェルカの分もあるよ。ここに置いておくから、気が向いたら飲んでみてくれな」
声をかければ、シェルカはやっぱり机の向こうに引っ込んでしまったけれど、後から台所を覗いたら、飲み物は全部無くなっていた。

ザルイルと一緒の昼食の後、子どもたちが昼寝を始めたのを確認して、昼に許可をもらった火を使ってみる。

と言っても、スイッチを入れれば魔法の力で鉄板が熱くなるような仕組らしくて、使い心地としてはガスコンロよりも電磁調理器に近いか……。

おやつにと、ホットケーキのようなものを作ってみる。
ここしばらく食卓の上からザルイルが料理を作るのを見ていて、だいたいどれがどんな味の物なのかはわかりつつあった。

調理台まで届くようにと、ザルイルは椅子を重ねて行ってくれた。
「せめて今の二倍……。もうあとちょい大きくなれれば、こんな二つも椅子を重ねてぐらぐらさせながらやらなくても良さそうなんだけどな……」
俺の呟きは、誰にも聞かれていないつもりだったが、ホットケーキの焼ける甘い匂いにつられて起き出した子は、それを聞いていたらしい。

ライゴ用に、手に持って食べられる小さいサイズのを三枚。
シェルカ用に二枚焼いて、残りは自分の分と、明日用に……と焼いていたら、突然ガタンっと足元が崩れた。

咄嗟にフライバンのような形の調理器具だけは手放したが、できたのはそれだけだった。
俺は、来たる痛みに備えて体を強ばらせた。
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登場人物紹介

大木 洋平(おおき ようへい)男

     現役保育士だったが、保育中に寝落ち、気付けば異界に居た。

     身長178センチ。一人暮らしで料理上手、子ども好き。歌も好き。

     5話までほとんど触れられないものの、生い立ちは割と悲惨。

     暗くて狭いところに閉じ込められない限りは、明るく優しい青年。

ライゴ  ザルイルの息子、明るく素直な四歳くらいの少年。

     二つ眼のせいで保育園に入れず、二つ眼にコンプレックスがある。

     グルーグレーの体毛と羽と瞳、ツノは四本。

     アイコン絵は人型時。

シェルカ ザルイルの娘、引っ込み思案で心の優しい三歳くらいの幼女。

     虫が苦手で、虫のようなサイズの洋平を最初怖がっていた。

     パステルピンクの体毛と羽、目は紫二つ眼→成長後は四つ眼に。

     アイコン絵は人型時。

ザルイル ライゴ、シェルカの父、落ちていた洋平を子どもへの土産にと拾ってきた。

     紳士的で落ち着いた性格。子ども達をとても大切にしている。

     外見は紫の毛に覆われたモッフモフ生物。ふわふわの羽で飛ぶ。

     ツノは六本、琥珀色の眼が八つある。

     アイコン絵は人型時。

リーバ  最初は〇歳の赤ちゃんとして登場するが、途中で脱皮して二歳ほどの見た目になり、

     辿々しく喋るようになる。

     独占欲が強くて洋平に執着している。洋平の歌が好き。

     真っ白でぬめぬめな蛇っぽい生き物。血のような赤い眼。

     一見単眼に見えるが、実は単眼の中にも眼を持っている。

リリア  山ほどもあるサイズのリーバの母。サイズの割にしゃべりは軽い。

     超回復薬を提供してくれる(実は唾液)

     ぱっと見ヘビっぽい外見だけど、ヌメヌメしている。

     ザルイルとは幼なじみ。

ニディア 正統派ドラゴンであることを誇りに思っている誇り高きツンデレ娘。デレ多め。

     ボクっ娘。最初、洋平に男と間違えられていた。六歳。

     一般の保育園に通っていたが、力が強く牙を剥く度拘束されていたため、

     そうしない洋平のところへ押しかけてくるようになった。

     緑の鱗が艶々のドラゴン。金色の六つ眼。

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