ハッピーエンドにしてみた

文字数 1,047文字

「マッチは要りませんか? マッチを買ってください」
 しんしんと雪が降り積もる街の大通りで、マッチ売りの少女が道行く人に声をかける。

 しかし、誰も買ってはくれない。立ち止まることはおろか、邪魔だと払いのけられることもあった。

 このままでは少女は凍えて死んでしまうだろう。彼女は真冬なのにコートも着ずに、擦り切れた靴を履いている。

「寒い……そうだ、このマッチに火を付ければ……」
 少女は売り物のマッチに手を伸ばす。

 しかし、指先が震えているせいで、どうにも上手くいかなかった。そればかりかマッチ箱を用水路に落としてしまう。

「もう、嫌……」
「今よっ!」
 少女が泣き崩れる寸前、ざぱぁっと用水路から女の人が飛び出してくる。やたらと神々しいその人は、両手に輝く小箱を持っていた。

「私は湖の女神! あなたが落としたのはこの金のマッチ箱でも銀のマッチ箱でもない、そうよね!?」
「ここ水路ですよ、女神さま」
「うるさいわよ、木こり! いいのよ私の湖から水を引いているんだから、湖の一部みたいなものよ! それで、回答は?」
「ふぇ……」
「ふぇ、つまり『いいえ』でいいわね?」
 少女が頷くと、女神さまは破顔した。

「よろしい、正直者のあなたには金のマッチ箱と銀のマッチ箱をあげましょう! ついでにこの間抜け面の木こりも貸してあげるから、一緒に行って換金してきなさい」
「ちょっと間抜け面って」
「間抜けじゃない。私があげた斧を寄付するなんて」
「……あれは魔が差して」
「私の好意を無下にしたんだから言う事、聞きなさいよ」
「元から嫌だなんて」「だいたい、アンタね」「なっ! 女神さまだって」
 女神さまと木こりが口論を始めたところで、少女がくしゃみをする。

「ご、ごめん、気が付かなくて」
 木こりは自分の上着を少女にかける。

「そんな、私なんかに……」
「自分を卑下しちゃダメよ。あなたはこれからうんと幸せになるの。これまで不幸だった分だけね」
「女神さま……」
「それじゃあ、木こり。この子をお願いね」
「もちろんです」
 木こりは頷くと、少女を抱き上げた。

「これを売ったら温かいコートを買おう。暖炉のある暖かいお店で、七面鳥の丸焼きや甘いケーキをお腹いっぱいになるまで食べるんだ」
 木こりの優しい言葉に、誰かの温もりに、マッチ売りの少女は笑みを浮かべた。



 24時50分、パソコンを落として寝室に向かう。

 細い髪を撫でる。

「君は気に入ってくれるかな……」
 この、マッチ売りの少女と、彼女が可哀そうだと泣き出した少女を笑わせるための物語を。


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