強くなること
文字数 2,113文字
終末の騎士団が去ってから、村人たちは村を再建すべく使えそうな木材をかき集めたり、家を建て直したりと大忙しになった。マルクも幼いながら、その村の再建を手伝っている。
しかしキールはと言うと、
「はぁっ!」
木の棒を剣に見立て、その棒で素振りをしていた。村の再建の手伝いをする様子は全く見られない。始めはそんなキールへ村の大人たちも難色を示していたのだが、何を言っても、
「俺は強くなるんだ!」
そう言っては村の再建を手伝う素振りを見せないキールへ、村人たちもあきれ果て、もう声をかける者もいなくなっていた。
そんな村の雰囲気に気付く様子もなく、キールは素振りを続けるとその棒を持って村の外へと出た。村の外には小型のモンスターが歩いている。このモンスターたちは村にとって直接的な害のないものだった。しかし、
「おりゃーっ!」
キールはそんな害のないモンスターをめがけ、棒を振るった。もちろん、小型のモンスターたちは逃げ惑う。それでもキールは追いかけ、追い詰め、そしてモンスターを倒していった。
(俺は、強くなってる……!)
自分の棒さばきがモンスターたちに通用することが分かったキールは興奮していた。このまま修行を続けていけば、きっともっと強くなれる。そうして強くなって、いつかは終末の騎士団のようにドラゴンだって倒せるようになる。
キールはそう信じて疑わなかった。
そうして、村の再建を尻目にキールは何かに取り憑かれたかのように村の外で小型のモンスターを倒していく。その腕は確かに上がっており、取り逃がすことも少なくなってはいた。
しかし、そんなキールの様子を幼いマルクは見ていた。
兄が行っていることを見て、マルクは純粋な疑問を口にする。
「ねぇ、お兄ちゃん。どうしてお兄ちゃんは、弱い物いじめばかりしているの?」
「え?」
その言葉はキールにとっては意外だった。
(弱い物、いじめ……?)
マルクの純粋な質問にキールは咄嗟に答えられない。キールが押し黙っていると、
「マルクちゃん、ちょっと手伝ってくれるかい?」
「はーい!」
マルクは村人に呼ばれて行ってしまった。
キールの胸には、マルクの純粋な瞳と『弱い物いじめ』と言う言葉が突き刺さり、そしてズキズキと胸を痛ませるのだった。
キールの脳裏をよぎるのは、村を蹂躙したあのドラゴンの様子だった。あのドラゴンはまさに、力のない自分たちをあざ笑うかのように、その強さを誇示するかのように、村を破壊し尽くしてしまった。
(もしかして、俺が今していることは、あのドラゴンと……)
同じかもしれない。
キールはそう考えに至り、ふるふると頭を振る。
(そんなはずはない……! だって、俺はただ純粋に強くなるために……)
そう思うものの、心のモヤモヤが晴れることはなかった。そして思い至る。
(俺は、どうして強くなりたかったんだっけ?)
ドラゴンをあっさりと倒して、颯爽と去って行った終末の騎士団。
そんな騎士団の強さに憧れ、カッコイイと思った自分がいるのは事実だ。しかし。
(そのために、罪のない小型のモンスターを倒していても……)
それはどんなに格好の悪いことだっただろうか。
そう考えたキールの顔から、火が噴き出しそうになる。
恥ずかしい。
羞恥心から、この場から逃げ出したい気持ちになった。今まで自分たち兄弟を支えてくれた村人たちの手伝いをすることなく、自分はただ、自分の欲望のためだけにそんな格好の悪いことをしていたのだ。
それに気付いたキールは翌日、村人たちに頭を下げた。
「今まで、ごめんなさい。今日から、何でもお手伝いします」
キールの変わりように最初は戸惑いを見せていた村人たちだったが、男手は多いに越したことはない。それに何より、キール自身が手伝うと言ってくれているのだ。それを断る理由は村人たちにはなかった。
キールが手伝いを始めてしばらくして、村は少しずつ建物も増えていき、瓦礫は撤去され、新しい村として生まれ変わっていった。まだまだ以前のような穏やかな村とはいかないものの、それでも村人たちの顔には笑顔が戻ってきていた。何より、
「お兄ちゃん!」
マルクが花を持って笑いかけてくれていた。その無邪気な笑顔に思わずキールも頬がほころぶ。マルクはキールへと駆け寄ると、
「お兄ちゃん、お花はいらんかね~?」
どうやら花売りの真似をしているようだ。マルクの言葉にキールは笑顔で、
「お花を一つ、頂こうかな」
「まいど!」
そう言ってマルクから花を受け取り、お金を渡す仕草をする。マルクはその後も、村人たちに花売りの真似をしながら、色とりどりの花を配っていった。
マルクから花を受け取った村人たちはみんな一様に笑顔だ。
その笑顔を見ていると、キールは一つの感情に襲われた。
(やっぱり俺、強くなりたい)
それは、以前のような自分勝手な強さを求めるためのものではなかった。
(みんなの笑顔を、もう、壊したくない)
穏やかに流れる村の時間。そして、その中にある村人たちの笑顔。
それらを壊されたくない、守りたい。
そのための強さが欲しい。
キールはそう思うようになった。
それからすぐ、キールは村長に相談した。
しかしキールはと言うと、
「はぁっ!」
木の棒を剣に見立て、その棒で素振りをしていた。村の再建の手伝いをする様子は全く見られない。始めはそんなキールへ村の大人たちも難色を示していたのだが、何を言っても、
「俺は強くなるんだ!」
そう言っては村の再建を手伝う素振りを見せないキールへ、村人たちもあきれ果て、もう声をかける者もいなくなっていた。
そんな村の雰囲気に気付く様子もなく、キールは素振りを続けるとその棒を持って村の外へと出た。村の外には小型のモンスターが歩いている。このモンスターたちは村にとって直接的な害のないものだった。しかし、
「おりゃーっ!」
キールはそんな害のないモンスターをめがけ、棒を振るった。もちろん、小型のモンスターたちは逃げ惑う。それでもキールは追いかけ、追い詰め、そしてモンスターを倒していった。
(俺は、強くなってる……!)
自分の棒さばきがモンスターたちに通用することが分かったキールは興奮していた。このまま修行を続けていけば、きっともっと強くなれる。そうして強くなって、いつかは終末の騎士団のようにドラゴンだって倒せるようになる。
キールはそう信じて疑わなかった。
そうして、村の再建を尻目にキールは何かに取り憑かれたかのように村の外で小型のモンスターを倒していく。その腕は確かに上がっており、取り逃がすことも少なくなってはいた。
しかし、そんなキールの様子を幼いマルクは見ていた。
兄が行っていることを見て、マルクは純粋な疑問を口にする。
「ねぇ、お兄ちゃん。どうしてお兄ちゃんは、弱い物いじめばかりしているの?」
「え?」
その言葉はキールにとっては意外だった。
(弱い物、いじめ……?)
マルクの純粋な質問にキールは咄嗟に答えられない。キールが押し黙っていると、
「マルクちゃん、ちょっと手伝ってくれるかい?」
「はーい!」
マルクは村人に呼ばれて行ってしまった。
キールの胸には、マルクの純粋な瞳と『弱い物いじめ』と言う言葉が突き刺さり、そしてズキズキと胸を痛ませるのだった。
キールの脳裏をよぎるのは、村を蹂躙したあのドラゴンの様子だった。あのドラゴンはまさに、力のない自分たちをあざ笑うかのように、その強さを誇示するかのように、村を破壊し尽くしてしまった。
(もしかして、俺が今していることは、あのドラゴンと……)
同じかもしれない。
キールはそう考えに至り、ふるふると頭を振る。
(そんなはずはない……! だって、俺はただ純粋に強くなるために……)
そう思うものの、心のモヤモヤが晴れることはなかった。そして思い至る。
(俺は、どうして強くなりたかったんだっけ?)
ドラゴンをあっさりと倒して、颯爽と去って行った終末の騎士団。
そんな騎士団の強さに憧れ、カッコイイと思った自分がいるのは事実だ。しかし。
(そのために、罪のない小型のモンスターを倒していても……)
それはどんなに格好の悪いことだっただろうか。
そう考えたキールの顔から、火が噴き出しそうになる。
恥ずかしい。
羞恥心から、この場から逃げ出したい気持ちになった。今まで自分たち兄弟を支えてくれた村人たちの手伝いをすることなく、自分はただ、自分の欲望のためだけにそんな格好の悪いことをしていたのだ。
それに気付いたキールは翌日、村人たちに頭を下げた。
「今まで、ごめんなさい。今日から、何でもお手伝いします」
キールの変わりように最初は戸惑いを見せていた村人たちだったが、男手は多いに越したことはない。それに何より、キール自身が手伝うと言ってくれているのだ。それを断る理由は村人たちにはなかった。
キールが手伝いを始めてしばらくして、村は少しずつ建物も増えていき、瓦礫は撤去され、新しい村として生まれ変わっていった。まだまだ以前のような穏やかな村とはいかないものの、それでも村人たちの顔には笑顔が戻ってきていた。何より、
「お兄ちゃん!」
マルクが花を持って笑いかけてくれていた。その無邪気な笑顔に思わずキールも頬がほころぶ。マルクはキールへと駆け寄ると、
「お兄ちゃん、お花はいらんかね~?」
どうやら花売りの真似をしているようだ。マルクの言葉にキールは笑顔で、
「お花を一つ、頂こうかな」
「まいど!」
そう言ってマルクから花を受け取り、お金を渡す仕草をする。マルクはその後も、村人たちに花売りの真似をしながら、色とりどりの花を配っていった。
マルクから花を受け取った村人たちはみんな一様に笑顔だ。
その笑顔を見ていると、キールは一つの感情に襲われた。
(やっぱり俺、強くなりたい)
それは、以前のような自分勝手な強さを求めるためのものではなかった。
(みんなの笑顔を、もう、壊したくない)
穏やかに流れる村の時間。そして、その中にある村人たちの笑顔。
それらを壊されたくない、守りたい。
そのための強さが欲しい。
キールはそう思うようになった。
それからすぐ、キールは村長に相談した。