第4回:アカネはイケメン

文字数 1,822文字

 そして一年前、二〇二二年のハロウィンシーズンのこと。世間では仮装して久々に外を出歩けるということで大騒ぎになっていたときである。ちなみに会社も、外出自粛令もとうになくなり、つい先年までリモートワークだったことを忘れたかのように本社出勤になって、感染者が出てもまさに季節性インフルエンザ並みに何食わぬ顔をするようになっていた。悲喜こもごもである。
 そんなだからアカネも私も仮装して外出することにした。アカネはハロウィンに限らず面白いこと好きで、やたらとやりたがる。私はそれに振り回されて押し切られるばかりだ。ただ今回は混雑する都心には行かない。あくまでも近所を練り歩いて友人と会うだけだ。その友人も私にはろくにいないので、アカネの友人だけだった。
 アカネは私からスーツを借りてイケメン執事になり、私は通販で買った初音ミクの衣装でコスプレをした。
 それはいい、さて問題はそのコスプレのときの化粧と体型である。体格がゴツゴツしていないとはいえ、身長は中途半端に高い。ちなみにアカネも女としては背が高いので、二人の身長はほぼ同じだ。
 アカネと電話で相談した。
「これ着たところで、ただのヘンなオッサンやん。ギャグにしかならへんわ」
 試しに着てみてもやっぱり、我ながら、ヒく。萌えではなく失笑を誘う。
「ほんならウチが化粧したげるし、胸も盛ったらええやん」
 ということで、アカネの家で本格的な女装コスプレが展開されることになったわけである。
「ムダ毛もちゃんと処理してきてなぁー」

「わぁー!」
 自分の服を――コスプレ分も、アカネの分も――持って家を訪れたとき、出てきたアカネは既に、イケメンな顔にできあがっていた。これはこれでグッとくる。

 まずは荷物整理。お互いの衣装をベッドの上にさっさと広げた。

 さて私の化粧の番だ。
 普段はファンデーションどころか化粧水も乳液も付けていない私に、アカネはスキンケアから教え、念入りに化粧を施した。ポイントメイクもマスカラまで入っている。付けまつ毛までされそうなのを固辞してこれだ。
「ほらほら見て! めっちゃかわいいで!」
 メイクをされて初めて鏡で自分を見せられて私はビックリした。
 というか――萌えた。アカネ、さすが元アイドルだな。貧乏アイドルだっただけに、メイクもセルフだったからだろう。
 こうして私は普通に女性の顔になっていた。しかしあんまりにも似合いすぎるので心中はフクザツである。こうなるともう、コスプレ考えさせてください、というよりも、毒を喰らわば皿まで、という乗り気になってきた。

「ほんで着替え着替え〜」
 アカネはブラジャーを手にしている。自分に見とれているうちに数分間、われを失っていたらしい。
「ウチのブラ貸したげるからパッド入れて盛り盛りしましょー」
「て、それ、なんでそんなフリフリのやねん!」
 スポーツブラとかではなく、レースの装飾の付いたピンクのを持っている。
「だって、カワイイやん」
 それにしてもあれもこれもイッペンにあけすけに云われ、私は頭の中がまとまらないままでわけのわからない興奮のるつぼ。しかしそれにしても、ブラ自体はカワイイとして、それを私が着て、カワイイんか?
 とにかくアカネがニヤニヤしながら観ているなかで私は、上半身は裸になった。相手が恋人なのだから脱いでもヘンタイでもなんでもないはずなのだが、問題はそのブラジャーを手ずから装着されることである。こうしてブラジャーを着せられるオトコって、どうなんだ? そう思いつつ、この身体の興奮は収まらない。
 もともと胸の小さいアカネのことである。ブラパッドの用意もある。私はそこそこ――Bカップくらい?――の胸のある姿にされた。こう無理のない大きさが、妙にバランスがとれている。
 だが、バランスがとれていない――胸の毛が。私は毛が濃いわけではなく、むしろ淡いほうなのだ。それでもやはり、腕と脇、そして脚は、剃って来ていた。タイツというかハイソックスに手袋というかアームカバーはあっても二の腕や『絶対領域』は露出するから。それに対して見えないところまでは剃らなかった。それはまあ、そうだろう。胸もそうだが、VIOゾーンまでお手入れ済というのでは、逆の、クるものがある。
 まあ、その胸毛も、着れば見えなくなる。上も下も頭も、肝心の初音ミクを着るだけ。
「やってあげましょーか?」
「いや、これは自分でできる」
 お母さんと幼児じゃあるまいし。

〈つづく〉
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