紙テープと決意

文字数 900文字

今から約21年前、高校へと進学する春、私は生まれ育った小さな島を離れた。
私が15年間暮らしていたその島は、山と海に囲まれ、本土まではフェリーで2時間45分かかる。
小さな頃からその豊かな自然そのものが私たち島の子にとっての遊び場だった。
コンビニなんてあるはずもなく、夜の8時にはすべての店が閉まり、虫の鳴き声が響き渡る。
そこに暮らす人たちは顔見知りばかりで、うわさなんてあっという間に広まってしまう。
何にもないこの島を早く離れたくて仕方がなかった。
「こんな田舎、早く出てやる。」
本気でそう思っていた。
私は本土の高校に進学するために、受験勉強をがんばった。

無事高校受験に合格し、15年間育った島を出る日が来た。
島を出ていく人を港で見送る時に行うある風習がある。
色とりどりの紙テープを割り箸にセットし、見送られる側はその割り箸の両端を持ち、テープの先端を岸壁に立っている見送る側の人に持ってもらうというものだ。
船が岸壁を離れていくにつれ、テープが延び、たくさんの色とりどりのテープが風で舞い上がる。別れの季節によくみられる光景である。
私はその日、初めて見送られる側になった。
「またね。ありがとう。」
「元気でね。いつでも帰っておいで。」
「がんばれ!」
たくさんの別れの言葉が飛び交う。
私の同級生は40人のうち、約半数が中学卒業と同時に島を出た。
他にも大学や専門学校に進学する人、就職する人、本土への転勤になった人などが毎年島を出ていく。
いつもの聞き慣れた汽笛が鳴り響き、船はゆっくりと岸壁から離れ、家族や友人・・・
見慣れた顔がだんだん小さくなっていく。
テープはいつしか切れて、私は何度も大きく手を振った。
やがて船は進行方向へ向かって旋回し、2度目の汽笛を大きく鳴らす。
見送りの人たちも、港に近い私の家も、通った小学校、中学校、病院、温泉施設、グラウンド、公園、毎年泳ぎに行った海水浴場・・・
私が育った場所すべてがだんだんだんだん見えなくなり、やがて辺りは青い海だけになった。
「ああ、私は島を出たんだ。ここからは1人。しっかりしなきゃ。頑張らなきゃ。」
まだ少し肌寒い春の日、船の甲板で涙をこらえながら心に決めた。
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